『組込みソフトエンジニアを極める』がリリースされてちょうど一ヶ月がたった。編集者の話では実売は「まあまあ」とのこと。
ひとつ誤算だったのは、本のリリースにあわせて読者の声を吸い上げるためにWEBサイトやブログサイトを立ち上げたにも関わらず、現場の組込みソフトエンジニアの生の感想を十分に聞くことができていないという点だ。
組込みソフトエンジニアの口は結構重い。マイクを向けて興味のありそうな質問をすると答えてくれるし、日々苦労していることなどについて水を向けると堰を切ったように話してくれる。
でも、なかなか自ら情報を発信はしてくれない。要するに「強い個人」と「やさしい一員」の典型的なやさしい一員なのだろう。
ただ、情報を発信しないからといって何も考えていないわけではない。SESSAMEのセミナーでは毎回セミナー終了後に何ページにもわたるアンケートを書いてもらっているが、後で集計すると叱咤激励、自組織の問題点、愚痴、新たなセミナーやコンテンツのリクエスト、感動のメッセージ等々コメントがいっぱい書いてある。
ちなみに、昨夜ある組込み開発の現場で技術リーダーをしている方から、『組込みソフトエンジニアを極める』の感想メールをいただいた。
昨年秋のあるフォーラムでこの方がご自分の取り組みを発表していたときに、たまたま自分がその話しを聞いていて「これは本に書いた取り組みに似ている」と感じた。
まだ、原稿を脱稿したばかりだったのでとりあえずSESSAMEの名刺を交換をして自己紹介だけしてあった。
その後、本の見本ができたときに強引とは思いつつ、事情を書いたメールをお送りし「是非、本を読んでいただき感想を教えてもらえないか」と打診したところ快くお受けいただいた。その後、一ヶ月がたちそろそろかなと思っていたら、以下のようなメッセージをいただくことができた。全部を引用することはできないが一部だけでも紹介したい。
【組込み系の技術リーダーの方からメールより一部引用】
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私と私が管轄するプロジェクトのリーダーの2人で読ませていただきました。総じての感想ですが、中堅のエンジニアに是非読ませたいということで意見が一致しました。
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何も知らない初心者にはちょっとつらいかもしれませんが、ある程度実践経験のあるメンバーには、何をするべきかの良いインデックスの役割を持つと思います。特に1章では、技術的な課題とその背景が明確にされているため、解決策として何が有効なのかが理解でき現在の技術の必要性の理解に役立ちます。
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本に書かれてある再利用の壁、品質の壁をに直面している段階で、第3章にあるように体系的な再利用を推進するためになにが必要かを見直している所です。
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いくら製品のロードマップをベースにプラットフォームとなる構造を作り出し、再利用できる部品を作り出しても実際の商品化に有効利用していく体制を作らないと、構造も部品も定着しません。(コア資産になりません)これから、水平展開(裾野の拡大:定着)、ブラッシュアップ(再利用、品質と効率の向上)をすすめる段階に移ります。この本は、これからの我々にとって、良い指標・なにを考えるべきかの指標として、良い情報を与えてくれます。今後の展開に有効に利用させていただこうと考えております。
蛇足ではありますが、技術導入と水平展開には組織・体制などの整備が不可欠と思います。本書の立花さんの役割が重要になってくるのではないでしょうか。デマルコ風の外伝から予想して、立花さんの活躍(組織を動かす苦労)も載ってくるのかな?と思っていたのですが・・・。
技術導入は組織を説得する苦労とペアであるように思います。組織は数字による裏づけなしには動きません。効果の見せ方などにも言及していただくと、これまで動かなかった(動けなかった)エンジニアにも刺激になると思います。
【引用終わり】
このメッセージに対して以下のような返信を書いた。
【返信メールより引用】
本の感想ありがとうございました。
組込みソフトのソリューションはドメインによって処方箋が全部違うはずです。だから組込みソフトにはゴールドスタンダードがなくそのものズバリという本がないのだと思います。
そのような環境の中で実際に組込みソフトを開発している方に評価されたことが率直にうれしいです。この本書いてよかったと思いました。この本の中で繰り返し書いた真のユーザーに満足を与えることができたという実感をつかむことができました。
ところで、以下、さすがは現場で体系的な再利用に取り組んでおられる技術リーダーのコメントだと思いました。
> 蛇足ではありますが、技術導入と水平展開には組織・体制などの整備が不可欠
> と思います。本書の立花さんの役割が重要になってくるのではないでしょうか。
> デマルコ風の外伝から予想して、立花さんの活躍(組織を動かす苦労)も載って
> くるのかな?と思っていたのですが・・・。
> 技術導入は組織を説得する苦労とペアであるように思います。組織は数字による
> 裏づけなしには動きません。
> 効果の見せ方などにも言及していただくと、これまで動かなかった(動けなかった)
> エジニアにも刺激になるのではないでしょうか。次回作に期待していいでしょうか?
実は、組織を動かす・説得する苦労が載っていないという点については明確な理由が2つあります。
一つ目は、この本で想定したユーザー(顧客)と問題解決の目的はエンジニア個人とスキルアップであり、組織や組織の成功ではないという点です。もちろん、プロジェクトや組織に成功のための取り組みがテーマであることには間違いないのですが、本というプロダクトを買ってくれる最大の顧客はエンジニア個人です。したがって、組織を説得するというテーマは非常に大事ではありますが、何千人または何万人の組込みソフトエンジニアが求めているかと考えると追求すべきはエンジニア個人の利益(いかに苦境を乗り切るために学習意欲を高めることができるかどうか)の方が強いということになります。
二つ目は、私自身のこれまでの取り組みが自分のプロダクトのラインナップで実施してきた再利用、品質向上施策であり、組織全体にはまだ展開されていなかったからです。要するに自分の責任と権限の範疇で実施できたことを書いたというのが事実であり、組織を説得するようなところまでは至っていなかったというのが本当のところです。
ある意味、私は自分自身がリアルな世界で達成できなかったことを本というバーチャルな世界の中で立花という自分の分身に実現させて夢を見ていたわけです。
ところが、リアルな世界で異変があり、この4月から開発の現場を離れて現場のプロジェクトを支援・指導する立場になりました。
このことは本の原稿を脱稿してからわかったことで、本に書いた話が現実化してしまい苦笑いしているところです。
ということで、組織を動かす苦労はこれからたっぷりと味わうことになります。すでにその苦労は始まっていますので、何年かすれば組織を説得するためのソリューションをなんらかの形で示せるかもしれません。
【引用終わり】
最後にこの技術リーダの方が書かれた「技術導入は組織を説得する苦労とペアであるように思います。組織は数字による裏づけなしには動きません。効果の見せ方などにも言及していただくと、これまで動かなかった(動けなかった)エジニアにも刺激になるのではないでしょうか。」のコメントはEEBOFが取り組んでいる課題のひとつだと思う。
この課題の解決にはEEBOFとEEBOFでコンサルタント修行中のよしのさんのがんばりに期待したい。
自分の方も苦労話や成功体験がたまってきたら、このブログサイトでも公開できる範囲でお知らせしていこうと思う。
また、『組込みソフトエンジニアを極める』への感想、ご意見は巻末のメールアドレスまで是非お送りいただきたい。そられのフィードバックがあってこそ次回の改善につながるのである。
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