2006-05-24

『組込みソフトエンジニアを極める』に送られたメッセージ2

南野光太郎からメッセージが届いた。(南野光太郎とは、『組込みソフトエンジニアを極める』の中に登場するビジネス系のソフトウェアエンジニアのこと)

正確に言うと、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のミクシィで知り合った、ビジネス系から組込み系にコンバートしたソフトウェアエンジニアの方から、『組込みソフトエンジニアを極める』の感想が届いたのだ。

本の中ではビジネス系のドメインでオブジェクト指向設計について学んだ南野光太郎が友人の組込みソフトエンジニアである組田鉄夫に自分のスキルを伝授する場面がある。この方は現実のソフトウェア開発にもこのような場面があることを教えてくれた。


【本の感想メールから引用】

組込みソフトエンジニアを極める』を読ませて頂きました。

全体を通して、非常に中身の濃い本ですね。全くの組込み初心者には少し難しい内容かなと思いましたが、多少のベーススキルがあるエンジニアには知識の整理や、再利用を見据えた設計手法などの良い参考書として使えると思います。

組込み経験の浅い私には、1章のRTOSの基礎の説明で、はっきりと理解できていなかったRTOSの働きがきちんと整理できたように思います。

2章の機能分割についてはまさに今の仕事に関係するところで興味深く読むことができました。というのも、ある組込み機器に搭載してている一機能を設計フェーズから作り直しをするという作業を始めたばかりだったからです。

もともと、前機種で新規に実装した機能だったのですが前任のチームが仕様の取りまとめや実装面でトラブルを起こし、当初の思想からほど遠い実装状態でなんとかリリースしました。しかし、今後の機種展開の改修に耐えられないという判断から、再び設計からやり直しとなったのです。

この作業でちょうどレイヤ構成やモジュール分割、公開関数の粒度などで頭を悩ませていたのですが、オブジェクト指向の考え方が適用できる、という ことを第2章を読んで気づきました。私の中で「組込み系」は「業務系」と世界が違うのだと考えすぎていて、業務系で経験したスキルが応用できるのだという ところを見落としていました。

また今の作業では3章、4章の再利用と品質についても検討する場面が当然出てきますので、この作業をちょうどこの本の内容に沿ったケーススタディとして、色々と私なりの考えを巡らせ、実戦に適用できる部分が無いか試してみようかと思います。

【引用終わり】

自分も現実の仕事において、ビジネス系の世界でオブジェクト設計を学んだスペシャリストにいろいろと教えてもらった。近くにそのような人がいなければ独学では技術を習得するのは難しかったと思う。

長年組込みソフトをやってきた技術者とオブジェクト指向設計を使ってきた技術者では同じソフトウェア開発でも対象を見る視点が違う。大局から全体構造を考えるにはやはりオブジェクト指向設計的な視点で見た方がよいように思う。ただ、限られた制約条件の中で性能を満たすことができるかどうかは、組込みソフトの経験がものを言う。

さて、いみじくも2人のレビューワーからこの本は「全くの組込み初心者には少し難しいかもしれない」と言われてしまった。

実は本の見本ができあがって全体を通して読んだ際の自分の印象も「初心者にはちょっと難しい部分もあるかな」だった。文章が難しいという意味ではなく、中堅やベテランのエンジニアでなければ経験しないようなスキル、場面が後半の方に出てくるということだ。

しかし、だからといって初級の技術者に役に立たない訳ではない。まだ完全には自分のものにならなくても、ゴールのイメージを持つことは大事だと思う。

工房に入門した弟子が師匠の技を盗み取ることはまだできなくとも、師匠の行動や師匠が作った作品を見たり触れりすることは重要である。

道を究めるには、常に一流の作品に触れている必要がある。

そういう意味でも、『組込みソフトエンジニアを極める』は初級の組込みソフトエンジニアにも、ビジネス系のソフトウェアエンジニアにも読んでもらう価値があると思う。

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