2006-05-21

組込みプレス Vol.3

組込みプレス Vol.3 が発売になった。今号から季刊になるとのこと。組込みプレス はこれまでは「是非、読んでね」くらいのレベルだったが、Vol.3 は「絶対読んでおけよ!」くらいのインパクトがある。バラエティに富んだ構成でありながら内容が濃い。

自分自身は、一般記事の中の SESSAME Workshop 2006 でモデレータを務めたパネルディスカッションの様子を「組込みソフト技術者のあるべき姿を探る」というタイトルで14ページの記事にまとめた。この記事も是非読んでいただきたいが、他にもおもしろい記事が盛りだくさんなので、一つずつ紹介していきたいと思う。

【特集1 ハード/ソフト技術、業界がわかる! 組込みシステム基礎の基礎】

この特集記事は、SESSAMEのメンバーでもある みわよしこ さんの記事で、「ハードウェア技術」「ソフトウェア技術」「組込み産業/組込み技術者」という3つの視点で組込みソフトにまつわるいろいろなことがらを解説している。ページをぱらぱらとめくってすぐに気がつくのは、部品が実装されたプリント基板や、LED、三端子レギュレータ、トグルスイッチ、ディップスイッチ、サーミスタ、モータなどの写真がふんだんに使われている点だ。組込みソフト系の雑誌というとデバイスのインターフェース周りの雑誌と、プロジェクトマネージメントやオブジェクト指向設計技術などどちらかに偏りそうなものだが、今回の組込みプレス Vol.3 は、その両方を網羅している。「大規模開発時代の組込みエンジニアのための技術&マネジメント情報誌」というコンセプトに嘘はないように思う。

みわさんの記事は、具体的なハードウェアデバイスの特性や原理、使用方法を解説するとともに、プログラミングやテストリアルタイムOS、ミドルウェア、組込み産業の現状など、非常に広範囲に組込みソフトの領域を解説している。組込みソフトの世界に踏み込んだ新人や、ビジネス系から組込みソフトの世界に移り困惑している技術者にはうってつけの記事だ。

【本音で語る ソフトエンジニア vs ハードエンジニア】

組込み機器開発の中では日々起こっているソフト屋さんとハード屋さんのバトル。現場ではしょっちゅう起こっていることで、それぞれの立場の違いから起こる勘違いやいざこざはあることはわかっているものの、他の業種、他のプロジェクトでも同じなのかどうかはわからなかった。雑誌の記事の中でソフトエンジニアとハードエンジニアが意見を戦わせる座談会の様子が載るのはめずらしい。

【組込みソフトのプロになるための C言語入門】

C言語によるプログラムの書き方の解説に加え、この特集では組込みソフトエンジニアとしての心構えや考え方、コーディング規約や、コストとの闘い、品質の確保など、現場寄りの生々しい話題についても取り上げている。

【新人管理者のためのマネジメントの基礎知識】

この記事は、豆蔵のコンサルタントで、EEBOFのメンバーでもある井上樹さんの記事で、「QCD」「PDS」「段取り」「地図」の四種の神器で組込み開発の荒波を乗り越えるという内容だ。

大規模化したソフトウェアにはプロセスアプローチ、プロジェクトマネージメント、ソフトウェア工学の適用が不可欠だが、これらの理論をどのように、ソフトウェア開発の現場に適用すればよいかについて解説している。

【組込みソフト技術者のあるべき姿を探る】

この記事は、冒頭で紹介したように、 2006年1月23日に行われた Open SESSAME Workshop 2006 のパネルディスカッションの様子を記事にしたものだ。パネルメンバーは、前日経エレクトロニクスの編集長 浅見さん、東京大学CEOものづくり経営研究センターの立本さん、東陽テクニカの二上さん、電気通信大学の西さんの4人で、モデレータ役が自分だった。このパネルディスカッションは4人それぞれにロール(役割)をあらかじめ決めて、それぞれのロールで発言をしてもらった。浅見さんは組込み産業のマーケットリサーチャー、立本さんは産業競争力の分析者、二上さんは技術者教育のスペシャリスト、西さんはソフトウェア品質・テストの専門家といった感じだ。このパネルディスカッションの特徴は、パネルメンバーがそれぞれの分野のスペシャリストであるため発言の内容が深いところだと思う。このパネルディスカッションで語り尽くせなかった内容は、後日座談会を開いたので、こちら記事は組込みプレス vol.4 をお読みいただきたい。

【組込みリアルタイムソフトウェア開発のアプローチ】

最近独立系のコンサルタントとして活動は始められた橋本隆成さんの記事。「組込みソフトウェアとリアルタイムシステム」「組込みシステムの開発手法と戦略」「組込みリアルタイムシステム方法論の紹介」という3部構成となっている。組込みに特有のリソースの制約やリアルタイム性について、言及されており、DARTS(Designe Approch for Real Time Systems)やリアルタイムシステムの開発方法論「Harmony」が紹介されている。ビジネス系のモデルでは表現しきれないリアルタイム系のモデルの表現方法、設計方法についてさまざまな視点、開発方法で解決策を提示している。

【組込みユーザービリティエンジニアリング原論】

組込みの世界でユーザービリティはとても大事だ。ユーザーにとって使いやすい機器にできるかどうかは、ユーザーインターフェースの善し悪しにかかってくるが、今の組込み機器のユーザーインターフェースはソフトウェアの影響が強く表れる。ユーザーの使用環境をよく理解したエンジニアが製品開発全体を見渡せる時代はユーザビリティエンジニアリングは必要なかったのかもしれないが、ソフトウェアが大規模化した現在ではユーザビリティを分析した上でものづくりをしないと、ユーザーが使いこなせい機能が生まれてしまう。この記事ではユーザーの満足度を向上させるための組込みユーザービリティエンジニアリングについて解説されている。

【携帯電話開発の舞台裏】

この記事は組込みプレス Vol.3 の中でも一押しの記事だ。滅多にお目にかかれない、とってもおもしろいから絶対に読んだ方がいい。

何がおもしろいかといったら、著者の数々の苦い体験が具体例をともなって載っているからだ。アンチパターンをこれほど具体的に書いてある記事は貴重だ。たとえば

・数10Kバイトのメモリ削減のおふれが出る
・ポインタ幅の取り決めが守られずシステムリセット
・性能の高いシミュレーション環境では深刻な不具合が隠蔽されてしまう
・他社のコードをバージョン管理システムに登録する際の契約
・CPU内蔵の高速RAMが救ったプロジェクト
・海外の開発拠点で開くPM会議では必ず2名程度の欠席がある
・欧米人は年に計5週間ほどの休暇を取り、その間にメールを送ると休暇中のメッセージを発信する vacation プログラムが活躍している
・兵役で戦線離脱するエンジニア
・入社6年というと目を丸くする外国人
・大規模開発では優秀なエンジニアに仕事が殺到しボトルネックになってしまう
・英会話能力の低さが招く悲劇
・長い海外出張で減る日本国内の友人

などなど、おもしろい話題が満載だ。

【海外エンジニア事情】

日本と海外のエンジニアの環境や考え方の違いを知るのはおもしろい。いかに日本が特殊な環境にいるのかがわかる。今回はインド・バンガロールの様子が紹介されている。

【超入門!ダイナミックリコンフィギュラブルプロセッサ】

最近、コンフィギュラブルプロセッサという舌をかみそうなキーワードをよく見かける。まだ、完全に理解していないのでこの記事を読んで理解を深めようと思う。

【世界に広がるARM32ビットRISCプロセッサその理由とは】

ARMよく使われてる。なんでARMの使用が広がっているのか、ARMの特徴は何か、4回構成で紹介してくれるとのこと。

最後に、巻末の小林道場で 川柳を募集している。開発現場で起こった災難・苦労などを5・7・5の川柳で送ると特賞は図書券三千円が当たるそうだ。

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