2006-05-30

Nokiaの技術戦略

日経BPの情報サイト Tech-On! に「着実に成果を出すNokiaのプラットフォーム戦略、CTOにその秘訣を聞く」(読むためには無償のユーザー登録が必要)という記事が載っていた。

記事の話題に移る前に、まず、記事のタイトルについて一言。フィンランドの会社 Nokiaは日本の中では知名度は低いが、グローバルな市場では携帯電話のシェアのトップを走っている。また、CTO(Chief Technology Officer)は自社の技術戦略や研究開発方針を立案、実施する責任者のこと。要するにその会社の中で技術に関係した経営戦略を考える人のことだ。CTOは組織の中で技術者が目指すポジションと言えるかもしれない。

Nokia は体系的再利用戦略であるプロダクトラインを成功させたと言われている会社であり、Nokiaの技術系の最高責任者 Tero Ojanpera 氏が Nokia の研究開発体制についてインタビューに答えている。

【記事からの引用】

我々は,明確な戦略を持って内製と外部調達を使い分けている。例えば,S60(Symbian OSベースのミドルウエア群)などのソフトウエア・プラットフォームは競争力の源泉であり,内部で開発する。そのほか,W-CDMA関連の回路も我々が開発している。その方がコストや電力効率で有利だからだ。

確かにディスプレイやカメラ・モジュールは外部調達しているが,多くの場合は部品メーカーとの共同開発という形をとっている。我々は,外部調達した部品を組み合わせるための「アーキテクチャ」を設計できる力を持つ。これは我々の大きな強みだ。

【引用終わり】

この発言から、Nokia は携帯電話の中の各モジュールの特徴と商品価値との関係を十分に分析しており、その上でどこを外に出すか、どこの技術は中に保持しなければいけないのかを把握していることがわかる。

また、製品の構成をどのようにするかといったアーキテクチャを設計する技術に自信を持っていると語っている。自社製品の技術について、このような発言ができる上位層がいる会社は間違いなく技術力が強く成功する確率の高い会社だ。日本の場合、現場寄りのアーキテクトがそういう感覚を持っていても、組織の上位層でアーキテクチャ設計の技術に自信があると言える人物はそう多くはないだろう。

Ojanpera氏は、このような技術力をどのように獲得したのかと聞かれ以下のように答えている。
  1. Nokia の研究所に、各分野を深く理解している技術者を大学や他の企業から積極的に招き入れる。
  2. 招いた技術者には、まず基礎的な研究分野を従事させる。
  3. その後、技術者を事業部門に送り、商品に近い開発をさせる。
  4. そうして、技術者や研究者にビジネス感覚を身につけさせる。
これによって、Nokia社の技術者は,常に革新を生み出しながら,「ビジネスになるか否か」という感覚を磨いていくのだそうだ。

自分も優秀なアーキテクトを育てるには、研究分野だけでなく、事業部門やサービス部門、マーケティングなども経験させる必要があるという話は『組込みソフトエンジニアを極める』の第3章-再利用の壁を越える-に書いた。CTOを目指すような技術者はビジネス感覚を身につけることも必要だということだ。

ただ、ここで「Kokia の成功、そうは言うものの・・・」という話をしておこう。

数年間シンガポールで仕事をして、つい最近日本に帰ってきた友人に会った。彼が言うには、シンガポールでは Nokia の携帯電話を使っていたが、日本に帰ってきて携帯電話を日本製に変えて困っているというのだ。

Nokia の携帯電話は電話帳もメールもシンプルで使い方を覚えるのも簡単だったのに、日本の携帯電話は機能が多すぎて使いこなせないらしい。シンガポールでは高校生がものすごい勢いで携帯電話のキーを押しているような光景は見かけないとのこと。

要するに日本では、海外では使われないようなものすごく多くの機能を携帯電話の中に突っ込むことに成功しており、そこそこ品質も保っている。

Nokia はもっともうるさい消費者のいる日本ではまだ成功を収めているとは言い難く、ちょろいお客しかいないところで自分たちの技術が高いと言っているのかもしれない。

日本でこれだけ複雑な機能を持った携帯電話を短期間にリリースできるのは、日本人のねばり強さとすり合わせの能力の高さのおかげだと思う。スマートではないけれども、何とか形にする能力と残業という切り札を使って達成している成果ということだ。

だから、Nokia の Ojanpera氏 が自分たちは自信があると言った商品の強みを考慮したパーツの切り分け技術(ドメイン分析技術)を日本の技術者が身につけ、体系的な再利用を行うことに成功できれば、日本はまだまだ組込み産業で世界のトップを走ることができる筈である。

もしも、携帯電話のドメインにいるソフトウェア技術者の方で、現状体育会系のノリで巨大なソフトウェア開発に取り組んでいるような人がいれば、その開発をスマートに乗り切って悪循環から好循環のステージにシフトするための第一歩として『組込みソフトエンジニアを極める』を読んでいただきたい。

と、最後は本の宣伝で終わる。

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