日経エレクトロニクス2006年4月24日号のカバーストーリーにソフトウェアプロダクトラインの記事が載った。
カバーストーリーの構成は以下のようになっている。
第1部:激変は前提。絶え間ない製品投入は必至。設計資産の構築で生き抜く
第2部:ソフトウェア編。プロダクトラインで10倍の格差。ソフトウェア工学にビジネスの視点を
第3部:ハードウェア編。長期展望の設計思想で世界同時立ち上げを実現
第4部:社外リソース編。開発・製造受託企業をマンツーマンで使いこなす
記事を読むと家電製品の価格の下落は激しいらしい。確かに消費者側からみると1年前に発売されたDVDレコーダなどは驚くほど安く買える。1980年代後半、AV機器の価格下落率は年率10%にも満たなかったのに、2000年代のDVDレコーダの価格下落率は年率20%近いそうだ。
日経エレクトロニクス2006年4月24日号のカバーストーリーではこの現象をデジタル民生機器が「生鮮品」と化したと書いている。早く売らないと腐ってしまうという意味だ。価格が下落しにくい「オンリー・ワン」の商品を作れているメーカーはいいが、組み合わせプラスちょっとしたユーザーインターフェースの違いで商品を作っている企業はなかなか厳しい。
日本ではほとんど持っている人を見かけないフィンランドの携帯電話メーカー Nokia Corp. は、世界市場ではかなりのシェアを持っていることは知っていたが、Nokia がプロダクトライン戦略に成功していたという話はこの記事で知った。2005年、日本の端末機メーカーの投入機種数はわずか10~15機種程度だったのにくらべて、Nokia は年間56機種も世界市場に投入したとこのこと。その Nokia もプロダクトラインにおけるコア資産を構築するために、2004年はリリースできた機種が36機種と、前年の40機種よりも落ち込んでいる。2000年ころから部品やプリント基板などハードウェアのモジュール化に、2001~2003年ころに体系的に再利用できるミドルウェアに構築に取り組んだそうだ。2005年になってから開発効率向上による恩恵を着実に享受できるようになったと、Nokia の Technolpgy Platforms Director, Software Platforms Marketing の担当者は語っている。
日経エレクトロニクスのすごいところは、ちゃんと Nokia に取材して情報をつかんでくるところだ。さらに具体例としてキャノンや松下電器産業、Philips、 Microsoftといったプロダクトラインに取り組んでいる企業を見つけて成功事例やこれからの取り組みを取材して記事にしている。
日本でソフトウェアプロダクトラインの取り組みを現場に指導できる数少ないコンサルタントであるイーソルの今関剛さんから提供された情報が掲載されていることもあって、キーワードが先行しやすいプロダクトラインの記事としては今回のカバーストーリーは現場に根ざしたエンジニアにも有益な記事になっていると思う。
自分も含めて、日本でボトムアップでプロダクトラインによる体系的な再利用戦略を実現し、開発の効率とソフトウェアの品質を高めようとする者にとって、Nokia のマシンガン体制のベースには、コア資産を構築するのに時間と工数がかなりかかっているという情報を明らかにしてくれたこの記事の功績は大きい。
なぜなら、日本では悪循環を断ち切るために付け足し付け足しのソフトウェア開発はやめにして、どこかの時点で体系的な再利用戦略に切り替え、悪循環から好循環に移行したいと技術リーダーたちが考えていても、組織が一時的なコストアップや工数アップに理解を示してくれないからである。
日本でプロダクトライン戦略を成功させるには、現場のエンジニアの負担がさらに増えることを覚悟の上でコア資産を再構築しつつ納期も遅れされないという犠牲を払わないとダメかもしれない。
どちらにしても、プロダクトラインというキーワードが一人歩きせずに、成功例とともに体系的再利用戦略が広まることで、エンジニアの負担を減らしソフトウェアの品質を高め、商品の開発効率を高めることにつながって欲しいと思う。
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