いつものように、まえがきを紹介したいと思う。
【世界一やさしい問題解決の授業のまえがきより】
みなさんの将来の夢は何ですか? 今どのような悩みがありますか? 壁に直面したとき、自分の力で乗り越え、人生を切り開いていけるという自信はありますか? それとも、あきらめてしまいそうですか?
この本で紹介する「考え抜く技術」、そして「考え抜き、行動する癖」を身につければ、たとえば苦手な教科を克服する、部活でよい成績を残す、文化祭を盛り上げるといった、日常生活で直面するさまざまな問題を解決できるようになります。そして、自分自身の才能と情熱が許すかぎり、夢を実現する可能性を最大限まで高めることができるようになります。
つまり、自ら責任が持てる人生、後悔しない人生を生きることができるようになるのです。
どんなに大きく複雑に見える問題でも、いくつかの小さな問題に分解すれば解けるのです。一度そのことに気がつけば自信がつくし、前向きになるし、精神的にも余裕ができます。そして、自ら考え、決断をし、行動することの楽しさを知り、人生を切り開くために必要な癖が身につくのです。
この本を紹介する問題解決の手法は、ぼくがかつて働いていたマッキンゼーという経営コンサルティング会社で活用されているものを基にしています。マッキンゼーは企業の社長さんや政府・非営利団体のリーダーの方々にアドバイスする会社で、日本や世界を代表する企業の戦略を立てるときにも、この手法が使われています。それだけでなく、これは個人の問題を解決するためにも必ず役に立ちます。ぼくは22歳でこの思考法と出会い、そのとき、「これが『考える』ということなのか! なぜこれをもっと早く教えてくれなかったんだろう」と強く思いました。そして、なるべく多くの人にこの思考法を伝えられればと思い、この本を書くことにしたのです。
この本では、最低限必要なものに絞って、シンプルに紹介してきます。
1限目では、自分で問題を解決することのできる人を「問題解決キッズ」と名づけ、それはどのような人なのか、問題解決の流れはどのようなものなのかを、ひととおり説明します。
2限目では、中学生バンド「キノコLovers」がより多くの人にコンサートに来てもらうためにはどうすればよいかを、問題解決の手法を使って解く例を紹介します。
3限目では、CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんが、まずパソコンを手に入れるために具体的な目標を立て、達成する方法を考え出す例を紹介します。
問題解決能力を身につけることは、けっして、人の感情がわからない「冷たい論理的な人」になるということでも、口が達者で自分のことしか考えない「個人主義で身勝手な人」になるわけでも、日本人的なよさを失い「欧米的な考えをする人」になることでもありません。
自分の力で考え抜き、行動をする人になる、自分の力で人生を切り開く人になるということなのです。
さあ、一緒に問題解決の思考法を楽しく学びましょう!
みなさんも一歩踏み出す力がきっと身につくはずです!
【引用終わり】
この本、ダイヤモンド社から1200円(+税)で2007年6月に出版されているのだが、4ヶ月でなんと13刷りまで増刷されている。まえがきからも分かるように、子供もターゲットの中に含まれている点が幅広い層から支持されているのだと思う。
著者の渡辺健介氏は、デルタスタジオをいう会社を作って、この問題解決の授業を実際に子供達に教える活動も行っている。
さて、冒頭に掲げた絵はこの本の中での子供達の分類を表している。子供になぞらえているが実際には大人の世界で考えた方がよりリアリティがある。
【「図1-1 問題解決キッズは最短距離でゴールにたどり着く」より】
「どうせどうせ」子ちゃん
- 考えないし行動もとらないので、ゴールにはたどり着かない。
- やってみないから何も学ばないし、自信もつかない。
- グチを言って日々過ごす。
- 何が問題か、だれが悪いか、何をすべきかは言えるが、自分では行動しない。
- リスクや結果に対する責任をとらない。
- わき目もふらずに前進あるのみ! へこたれずにがんばるが、ムダが多く、ゴールに最短距離でたどり着けない。
- 行動した結果から学ばないので、進化するスピードが遅い。
- 適度に考えて、行動して方向修正して・・・を繰り返し、最短距離でゴールにたどり着く。
- 実行の結果から毎回何かを学び、進化していく。
みなさんの周りにも「どうせどうせ」子ちゃんや「評論家」くん、「気合いでゴー」くんがいるのではないだろうか。自分は「問題解決キッズ」だと自負している人でも、一時的に「どうせどうせ」子ちゃんや「評論家」くん、「気合いでゴー」くんになることはある。しかし、いかに「問題解決キッズ」が少ないことか。子供の世界でも、あらかじめ答えのある問題しか解かせていないせいか「問題解決キッズ」は少ない。
渡辺氏は、「問題解決キッズ」は他の3人と「進化するスピード」がまったく異なると主張している。スタート地点では、全員100の力があると仮定し、「考え抜き、行動する癖」がある人とない人の進化のスピードをシミュレーションしている。
Aさんの進化のスピードが毎月1%、Bさんは5%、Cさんは10%で進化するとすると、3年後にはAさんとCさんでは22倍、BさんとCさんでも5倍の差が付く計算になる。10年、20年と人生を積み重ねていけば、その差は果てしなく広がる。「考え抜き、行動する癖」を身につけているか否かがその差になる。
さて、この本では問題解決の流れを 次のような工程で説明している。
【問題解決の流れ】
- 現状の理解
- 原因の特定
- 打ち手の決定
- 実行
別な言い方をすれば、問題解決のためには分析の工程がポイントであり、十分に分析しないでPDCAのサイクルを回してしまうと問題解決に時間がかかる可能性がある。PDCA回しているのに「気合いでゴー」くんになってしまう危険性もあると思う。
『世界一やさしい問題解決の授業』では、問題解決のためのツールとして
- 分解の木
- はい、いいえの木
- 課題分析シート
- 仮説の木
- 意志決定ツール
さて、実際の問題解決の方法論については『世界一やさしい問題解決の授業』を読んでいただくとして、この本で紹介されている。中学生バンド「キノコLovers」がより多くの人にコンサートに来てもらうためにはどうすればよいかの問題解決の手法と、CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんが、まずパソコンを手に入れるために具体的な目標を立て、達成する方法を考え出す例を読んだ感想を書きたいと思う。
まずは正直にいってげっそりしてしまった。なぜかというと、題材は子供向けではあるが、実際にやっていることはプロのイベント屋さんがやっているマーケティングや、ファイナンシャルプランナーの理論であり行動なので、何しろ「重い」。
自分が中学生になったつもりで問題解決の手法を実行することを想像してしまうと「重い」し、途中でくじけそうな気がしてしまう。
そう考えると、問題解決のための手法はこの本を参考にして身につけたとして、一番大事なのは問題解決の意志、モチベーションを問題が解決するまで高く持ち続けることができるかどうかだと思った。
だからこそ、この本の問題解決の例題が「キノコLoversがより多くの人にコンサートに来てもらうため」であり「CGアニメの映画監督になることを夢見るタローくんがパソコンを手に入れる」なのだ。当事者にとって何としても達成したい目標があるからこそ、問題解決の手法を使って行動する活力が沸いてくる。
自分はイマイチ、キノコLoversやタローくんに感情移入しきれなかったため、げっそりしてしまったが、自分自身の達成したい目標が課題なら気分はまた違う。
組込みソフトエンジニアにとって、問題解決の実現する活力(モチベーション)をどこに持って行くのかが実は難しい。
例えば、サラリーアップのような目標は問題解決を実現するモチベーションにはなりにくい。問題を解決しなくても、上司にゴマをすることで目標を達成できてしまうかもしれない。
組込み製品開発における問題は品質、コスト、納期、制約条件のクリアなどさまざまだが、組織としての最終目標は製品を完成させて製品が市場に受け入れられること、もっとストレートに言えば商品が売れることだ。
でも、商品が売れることに個人のモチベーションを重ねるのはどうかと感じる。そこで、提案したいのが顧客満足を問題解決を実現する活力(モチベーション)とするという考え方だ。
提供した商品をお客さんに満足してもらうこと目標に掲げ、問題解決を実現する活力になれば、商品開発で発生するさまざまな課題を問題解決のツールを使いながら乗り越えることができるし、エンジニア自身がみるみる進化する。商品の品質は顧客満足であるという考え方があるように、顧客満足を高めることは組織の目的にも合致する。顧客満足を高めることを個人の目標にできれば、組織の目標にもなるので都合がよい。
実際、自分自身はこのことがETSSで定義されるような技術的なスキルよりも大事だと考えている。それがこの記事のタイトルにした問題解決能力(Problem Solving Skill)だ。問題解決を実現する活力(モチベーション)を保ちながら、問題解決能力(Problem Solving Skill)を高めることができれば、エンジニア個人も進化するし、商品開発も成功に近づく。極端に言えば、問題解決能力(Problem Solving Skill)が高ければ、技術的スキルは最初なくても、当然必要であることに気がつくためいずれ身につく。
もう一つ、エンジニアの考え方として大事なのは「貢献」だと思う。自分は何にどのような貢献ができるのかと考える。例えば、組織に対して、社会に対して、家族に対して、コミュニティに対して。
貢献という視点は、所属する範囲の中の自分を意識し、その役割を意識することにつながる。だから、自分がやりたいことをやるのではなく、何が貢献できるのかという視点で考え、行動すると、成果は必ず評価されるはずだ。
これを機会にみなさんにも、問題解決能力(Problem Solving Skill)と問題解決を実現する活力(モチベーション)、貢献の視点、この3つについて考えていただきたい。
P.S.
『世界一やさしい問題解決の授業』の著者、渡辺健介氏は、あとがきで、次のように述べている。
【あとがきより引用】
問題解決能力に似たクリティカル・シンキングは、英米の一部の学校で、国語や歴史などの授業を通じて教えられています。次世代リーダーを育てるために、まず感情を揺さぶるような刺激を与えて問題意識を持たせたうえで、「問題の本質は何なのか」「自分だったらどうするのか」を問いかけることで、リーダーとしての責任感や意志決定能力をみにつけさせ、個人の価値観を結晶化させるのです。
私自身、中学校二年生からアメリカで教育を受けたのですが、最も衝撃的だったのがグチニッチハイスクールでの米国史の授業でした。
たとえば、公民権運動を取り上げる際には、黒人差別の映像-子供も女性も圧力ホースで吹き飛ばされ、警察犬にかみつかれる様子-を、あらゆる人種が混在するクラスメイト全員で見るのです。生々しい感情や体験を目の前につきつけられました。さらに、キング牧師の自伝はもちろん、弾圧する側だったKKK(クー・クラック・クラン)の資料や、関連する小説を読み、多様な視点で考えることを求められました。
【引用終わり】
日本の教育や生活の中で圧倒的に不足しているのが、このような感情を揺さぶるような刺激を受けて問題を考えることのように思う。テレビの中では議論は交わされているが、視聴者はそれをただ見ているだけ。ただ、米英の教育をまねすることがいいのか、そうすると日本人のアドバンテージが失われてしまうのかどうかはまだよく分からない。
ただ一つだけ言えるのは、問題解決能力の低い人間を寄せ集めても、物事はちっとも先に進まないということだ。
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