2006-04-08

新人技術者へのハードルは確実に高くなっている

R25というフリーペーパーをご存じだろうか。R25はリクルートが発行している25歳以上の男性ビジネスマン向けの情報誌だ。 R25のRとは(Restrict:制限)のRである。R25は毎週木曜日に駅などに置いてあるのだが人気があるのですぐになくなってしまう。

3月にR25の特別版のR17とR22が発行された。たまたま、どちらも手に入れることができた。R17は高校を卒業した卒業生に向けて、R22は新社会人に向けての記事構成となっている。

この二つの特別版のうち、R17がおもしろかった。今時の高校生が何を考えているのかわかる。R17世代にとって一番大切なことは? という質問に対しての答えで「思いやりの心」「人への気配り」「自分を理解してくれる友達」「友達を大事にする」といったものが目につく。

平和で何不自由のない恵まれた世の中のせいか、それとも日本は根っからの性善説の世の中なのか? 若いのに鋭さがないと感じる一方で、人の良さにほっとする面もある。

もう一つの質問で 夢は何ですか? の答えがおもしろい。 「スポーツライター」「グローバルな女」「イベントプロデューサー」「映画監督」「中国で会社経営」「料理人になりたい。食べるのが大好き。」「夢のない人に夢をあげられるようになる!」「歌手、楽しく気持ちよく歌っていたい。」

これらのR17の声を分析すると、テレビやインターネットで見た「かっこいい」と思った職業や特定のスターのようになりたいと単純に考えているのではないだろうか。そこには、かっこよさの裏にどんな世界が広がっているのかについては深く考えていないような気もする。

20数年前、ニンテンドーの初代ファミコンがまだ登場していなかったころ、やっと買えるようになったパソコン PC-6001 を手に入れテレビにつないで BASIC で初めてプログラムを書いていた。プログラムは雑誌に書いてあるリストをせっせとキーボードから打ち込んでは動かして喜んでいた。

ASCIIというパソコン雑誌に南青山シンドロームという、テキストベースのロールプレイングゲームのコードが16進数で何十ページにもわたって掲載されており、この16進数のコードを何日もかけて打ち込んだことを思い出す。

16進数のコードは当然打ち間違いをするのだが、ちゃんどページごとにチェックサムがついているので打ち込みが間違っているかどうか確認ができた。

当時はゲームの攻略本など存在せず、インターネットもなかったので南青山シンドロームの解き方は結局分からずじまいで最後までたどり着けなかった。

今はどうだろうか? ゲームの完成度は高く、若者はゲームを遊ぶことに夢中で、ゲームを作る楽しみに触れる機会がない。攻略本もあるので、ゲームの最後まで到達できないという挫折感もない。欲しい情報は自分で努力しなくても手に入る。サービスを受ける側とサービスする側、ものを使う側と作る側、物事には2つの側面がある。今はサービスをする側、ものを作る側の体験をする機会が極端に減ってしまった。

サービスする機会はアルバイトで経験できるが、ものを作る機会へ減ってしまったのは問題だ。冒頭のR17の夢の話しに戻れば、R17はかっこいい、華やかなスターがそこにたどり着くまでにどんな苦労をしてきたのかについて予想がつかないのは、自分自身で何かを企画しやり遂げるという経験をほとんどしていないからのように思える。

毎年入社してくる真っ白な新人技術者を見ていつも考えるのはオリンピックのレコードのことだ。オリンピックレコードは毎回毎回更新される。20年前と現在で生まれてくる子供達のスポーツへの素養はそれほど変わっているようには思えない。変わっているのは食物やトレーニング技術や道具類だが肝心の生身の人間の方は20年前と今とでもそう変わりないのである。

そう考えると20年前に生まれてくる選手よりも、今生まれてくる選手の方が越えなければいけないハードルが確実に高くなっている。

組込みソフトウェアの世界もオリンピックと同じだ。毎年毎年入社してくる新人技術者は学習しなければいけない知識・スキルが年々増している。にも関わらず、ものづくりをする側の経験が乏しくなっていると、ますます教育する側の負担が増える。

『組込みソフトエンジニアを極める』では、「実現したいユーザーニーズ」→分析→「技術的な難しさ」→克服→「ユーザーニーズの実現、商品の売り上げアップ」→満足感→「難しさを克服した喜び」→さらなる欲求→「実現したいユーザーニーズ」というサイクルを回すことが重要であると書いた。

このようなサイクルを何度か回すことができれば、エンジニアは自立走行する訓練を積むことができる。しかし、本当は社会人になるまでに、「自ら選択する」→「作業に関わる」→「集中する」→「満足感・達成感を得る」というサイクルをたくさん経験して欲しいのだ。

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