『ソフトウェアプロダクトライン』『People CMM』などの翻訳や、『ソフトウェア・ジャストインタイム』などの著書でおなじみの前田 卓雄さんから、『組込みソフトエンジニアを極める』の感想が届いた。
前田さんとは、Inteface誌2003年12月号に「 具体例で学ぶ組み込みソフトの再利用技術」という特集記事を書いた後の EEBOF の飲み会で初めてお会いした。その後、前田さんとは何回か会ったがいつも当を得た暗示を与えてくれる。
Inteface誌に書いた「 具体例で学ぶ組み込みソフトの再利用技術」はカーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所が研究している“ソフトウェアプロダクトライン”を日本向けにテーラリングしたもので、『組込みソフトエンジニアを極める』の第3章にリプレースされている。
前田さんから「 具体例で学ぶ組み込みソフトの再利用技術」の感想として「難しいことをわかりやすく書きますね」と言われた。そして、「酒井さんの考えておられることを組織の中で受け入れてもらうには、組織の山全体を動かしてレベルを上げなければいけないでしょう」という暗示をもらった。また、「待つ」と「相手に花を持たせる」ということが大事だとも言われた。
おそらく2003年当時の自分は文章にもトゲというか他の者を押しのけるような横暴さのようなものがあったのだろう。
だいぶ角が取れたという意味で『組込みソフトエンジニアを極める-外伝-』のWEBサイトに隠された本のメイキング日記の中で、自分はR40だと紹介している。
【組込みソフトエンジニアを極める-外伝- 著者の日記より引用】
酒井 由夫 (さかい よしお) R40(※1)
書籍 『組込みソフトエンジニアを極める』 の著者
※1
ここでのRは(Restrict:制限)のRではなく、40代くらいの丸みを持つエンジニアという意味。機械図面で R40 といえば角の半径(Radius)が40mmであることを示す。R20でとがっていた性格は歳を重ねるごとに丸みを増している。
【引用おわり】
こう書いたように、Interfaceで特集記事を書いた2003年から3年たって、だいぶ皮肉るような表現が減って丸みが増したように思う。
前田さんの『組込みソフトエンジニアを極める』の感想は要約すると2つあって、一つめは「これまで実行してきたことが本の中に想像され、組込み技術者であれば誰もが理解すべき、地に足のついた内容と思う」ということ、もう一つは、「1つの大きなステップを極められたのではないかと思い、このステップをベースに、新たな出発をするのではと推察する」という内容だった。
ハッと思ったのはこの本はフィクションで自分の本業とはまったく関係ない電子レジスターメーカーを舞台に物語りを展開させたにもかかわらず、「自分の実行してきたことが本の中に想像される」と見抜かれたことと、「新たな出発をするのでは」というところが図星だった点だ。
前田さんに指摘されて改めて本に書いた「リアルタイム設計技術」「オブジェクト指向設計」「体系的再利用技術」「ソフトウェアの信頼性向上技術」の4つの技術が自分がたどってきた道筋そのものであることに気がついた。そして、その期間の構成は「リアルタイム設計技術」が約20年、「オブジェクト指向設計」が約5年、「体系的再利用技術」が約3年、「ソフトウェアの信頼性向上技術」が約2年といったところである。
「リアルタイム設計技術」に関わった期間がいかに長いかということを再認識した。それだけ、組込みソフトは制約条件が厳しい中でリアルタイム性を実現することは使いやすさ、使う者の心地よさにつながっており難しい技術であるということだ。
そう考えると、『組込みソフトエンジニアを極める』の第一章「時間分割のハードルを越える」は他の章よりも凝縮度が高いかもしれない。
少なくとも、ビジネス系のソフトウェア開発をしている技術者の方には、まったく縁のない内容だと思う。逆に言えば、この部分が組込みソフトが組込みソフトであるゆえんでもある。
ちなみに、前田さんは最後に「ひとつの著書をまとめるには、相当のエネルギーが必要であったと推察する」と書いているが確かにその通りで相当エネルギーを使った。
そのメイキング日記はWEBサイト『組込みソフトエンジニアを極める-外伝-』に隠されているので是非入り口を見つけて、この企画が舞い込んできてリリースされるまでのストーリーを読んでいただきたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿