2006-07-15

権限もいらないから責任も取らないってあり?

責任者が誰だか分からないという ソフトウェアプロジェクトを見たことがある。実際にはマネージャ的な存在の人物はいるのだが、どうもだれも自分が責任者だと認識したくないらしい。

組込みソフトの世界で、技術者として長年やってきてベテランといわれるようになったものの、管理職としてプロジェクトマネージャになるのは嫌だというケースは昔もあった。自分は一生技術者でやっていきたい、管理職にはなりたくないという人の気持ちはわかる。

組込みスキル標準 2006年板 キャリア標準 Version 1.0(IPA ソフトウェア・エンジニアリング・センター)によると-組込みソフトウェアエンジニアの職種分類-は以下のようなものがあるという。

・プロダクトマネージャ(開発製品の要求仕様策定と統括管理)
・プロジェクトマネージャ(プロジェクトのマネージメント)
・ドメインスペシャリスト(専門的な知識、技術、経験でプロジェクトを支援)
・システムアーキテクト(アーキテクチャ:構造を設計する)
・ソフトウェアエンジニア(ベーシックなプログラマ)
・ブリッジSE(分散開発における橋渡し)
・開発環境エンジニア(プロジェクトで使用するツール・設備を構築、運用する)
・開発プロセス改善スペシャリスト(開発プロセスを調査し改善を推進する)
・QAスペシャリスト(成果物の品質を保証する)
・テストエンジニア(テストのスペシャリスト)

この職種分類が実現するなら、技術者→管理職というキャリアパス以外にいろいろな選択肢が出てくるのだろう。でも、今現在、ほとんどの組織ではまだ、技術者で何年もやってきてベテランといわれるようになるとプロジェクトマネージャになるという流れが多いと思う。

でも、同じ製品に携わったことでドメインの知識はあるが技術力がないという状態で、プロジェクトマネージャはやりたくない、技術もないけど管理職もイヤというのはないだろう。

このパターンで最悪なのは、何か問題が起こると技術を持っている協力会社に問題の解決を押しつけて、再発防止にはちっとも乗り出さないというケースだ。「しょうがないよ。誰も悪くないんだ。」「緊急事態だから、ここはなんとか頼むよ。」といいつつ、明らかに協力会社のアウトプットしたものに誤りがあった場合は「次からは気をつけてくれよ。」という態度にでる。

ようするに発注者の立場を利用して外注いじめをするようなタイプだ。

以前、英語でしゃべらナイトにカルロス・ゴーン氏がゲストで出演していたとき、一番大事な英単語は何かと聞かれて“commit”と答えていた。commitment の意味は、必ず果たすと約束 と理解している。

カルロス・ゴーン氏は社員に「あなたが必ず果たす約束は何か?」と聞くわけだ。責任と権限が曖昧な日本では、この質問をされると躊躇する者もいるだろう。

組織の中で commit する=必ず果たすべき約束をする ということは、技術者なら大抵は現状で足らないスキルを獲得するというオプションが付いてくるだろう。足らないスキルを獲得する努力なしに、組織と約束したことを実現することはできないはずだ。だから、commit するのに躊躇するエンジニアは足らないスキルを獲得できる見通しが立っていない、もしくは、最初から無理だとあきらめているのだと思う。

でもソフトウェアの品質を高めて顧客満足の高い商品を作りたいのなら、足らないスキルを何とかして獲得しなければいけない。

また、責任と権限という観点で考えれば、自分たちでルールを決めてそれを守るという習慣を付けなければ何事もうまくいかない。

ツールに任せるのにも限界がある。人間はもともと過ちを犯しやすく、技術者が毎日毎日作り込んでできあがるソフトウェアの品質を高めるには、自戒的アプローチは必須である。プロジェクトメンバーは多種多様であり、メンバー全員にルールを守ってもらうためには、メンバー一人一人の責任と権限を明確にしておく必要がある。

プロジェクトメンバー全員が「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」という認識のもと、困ったことがあったら誰がということもなくみんなが自己犠牲を払いながら問題を解決していくというアプローチは非常に日本的であり、これでうまくいくのならそれもいいように思う。

しかし、この考え方はともすれば、自らを律してスキルアップすることからエスケープしたり、責任回避の結果、ユーザーにしわ寄せがくる可能性がある。誰も責任を取らずにユーザーが不利益を被るようだと、その組織の存続は危うい。

「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」という考え方だけでものづくりができる時代はとっくの昔に終わっている。「創造性と個性にあふれた強い個人」と「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」のバランスを取る必要があるのだ。

だから、権限もいらないから責任も取らないという選択肢はない。そんなあまあまな体質のプロジェクトで顧客満足の高いプロダクトができるはずがない。

後5年もすれば、組込みスキル標準「ETSS」で当たり前のように技術者のスキルが診断されるようになり、プロダクトマネージャやプロジェクトマネージャの素養のない者は、責任や権限から解放されるかもしれない。

でも、管理職から解放された技術者は他人よりも優れた技術を持って、スペシャリストとしてやっていけなければ、どんなにベテランでもプロジェクトの中でやることがなくなってしまう。

ベテランの技術者は自分の技術の優れている点が何かをもう一度チェックし、特に優位な技術がないのであれば責任と権限を意識して、プロジェクトマネージャとして組織から信頼を得られるようにしなければいけない。

これって厳しすぎ?

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