訳あって携帯電話を新規で買うことになった。そのときの話である。最初にお断りしておくが、今回の携帯電話の購入に際して携帯電話のキャリアや販売店、携帯電話のメーカーに対して怒っているわけではない。個人的には不満はなかった。ただ、これって携帯電話の業界に取って本当にいいのだろうかと思っただけだ。
さて、総務省は平成19年の秋に(総務省の通達:携帯電話に係る端末価格と通信料金の区分の明確化に関する携帯電話事業者等への要請)という通達を出した。
携帯電話に係る端末価格と通信料金の区分の明確化について(要請)携帯電話(PHS等を含む。)に係る現行の販売モデルにおいては、端末価格と通信料金が一体となっている事案が多数存在し、利用者から見て負担の透明性・公平性が十分確保されているとは言えない状況にある。総務省においては、本日、「モバイルビジネス活性化プラン」を策定・公表し、端末価格と通信料金が一体となっている現行の販売モデルについて、2008年度を目途に、端末価格と通信料金が利用者から見て明確に区分された新料金プラン(利用期間付契約を含む。)を部分導入すべく所要の見直しを図る等の方針を示したところである。ついては、貴社において、上記の趣旨を踏まえ、携帯電話に係る端末価格と通信料金の区分の明確化を図るべく積極的かつ速やかに所要の措置を講じるよう検討することを要請する。
要するに、携帯電話のキャリア各社に対して携帯電話の本当の価格を隠して、使用者の通信費に上乗せし、販売店に販売奨励金を支払うという構図はやめなさいと指導をしたのだ。(携帯ゼロ円のカラクリ)
『三菱電機の携帯電話事業撤退で見えること』の記事に書いたように、このシステムのおかげで日本では機能満載の本当の価格を知ったら購入を躊躇するような高機能携帯電話をホイホイ買うような特殊な環境ができてしまった。日本の携帯市場はガラパゴスと呼ばれている。
グローバルな世界では、$100~$200 クラスのシンプルな携帯電話(例えばノキア製とか)が最もよく売れていると聞く。
総務省の勧告で携帯電話の本当の価格がユーザーの目に明らかになった・・・はずだった。その証拠に今回購入した携帯電話の価格は 42,960円と書かれていた。これが定価だ。
家電などの場合、この定価からいくら引いてくれるのかで、客と販売店は真剣勝負をする。ところが、携帯ショップではこの42,960円を割り引いてくれる気配がまったくない。どの店を見ても同じである。
しかし、24回の分割払いにすると月々の(実質)負担額は600円と書いてある。合計すると14,400円になる。だったら、なぜ、一括払いで 14,400円か、それよりも安い価格で売ってくれないのか? 一括払いより月賦払いの方が安い世界などあるのか?
このからくりは複数の店で何回か説明を聞いてやっと分かった。結論から言うと、次のようなことだ。
- 一括払いで買う人は 42,960円(定価) を払う。
- 分割払いする人も42,960円 の1/24(1,790円) を毎月払う。
- 一括払いする人にも分割払いする人にも携帯キャリアが24ヶ月月額通話料を1,190円割り引いてくれる。(新規購入の場合)
- 分割払いする人は、携帯の購入代金を月々1,790円払うが、月額通話料を1,190円割り引いてくれるので、相殺すると月々の負担は600円になる。
結論からいうと、この携帯電話は定価42,960円だが、実質的に 14,400円 で購入できる。携帯電話のキャリアは携帯電話の代金全額(42,960円)を購入者に成り代わって販売店に立て替え払いする。携帯電話メーカーは42,960円のうち卸価格分を受け取り、販売店はその差額を得る。そして、携帯電話の価格の月額分割支払金を24回払い金利なしで、キャリアがユーザーから徴収するが、月賦払いしている間キャリアやユーザーに対して通話量を割り引く。
かくして、目的の携帯電話が 実質 14,400円 で買えることが分かったものの、最初に 42,960円 を払うことに抵抗を感じた自分は、渋々、携帯電話キャリアの戦略に乗って 月々 600円 を24ヶ月払うことに同意した。
結果的にその携帯電話を 14,400円で買えたのは「安い」と思うので、その点は不満はない。しかし、以下の点で釈然としない。
- 販売店同士の販売競争が起こらない仕組みのように見える。
- キャリアが実質的に携帯電話の価格を大幅に値引いてくれているのは嬉しいが、それってユーザーがどこかでそのぶんを負担することになっていないか?
これって日本における携帯電話の異常な高付加価値・高機能マーケットをグローバルマーケットの需要と供給の関係に引き戻すブレーキになっていると思う。携帯電話の本体価格の負担は24ヶ月で終わるため、携帯電話の本体価格負担込みの不当に高い通話料をずっと払い続けることはなくなったが、日本人だけが身分不相応な高価な使わない機能満載の携帯電話を持ち続ける状況は解消できそうにない。
販売契約書をよくよく読むと、購入者は 42,960円 をこつこつと24回の月賦(毎月1,790円)で払うことになっている。しかし、その間、通信料をキャリアが1,190円割り引く。本体価格の負担金 1,790円と通話料の割引1,190円は互いに関連はないという論理だが、関係ないはずはないだろう。
実質的には月々 600円 の支払いとなり、携帯電話の価格は実質 14,400円であるが、あくまでも 携帯電話の価格は 42,960円だといいたいようなのである。
一言で言えば、これはまやかしだ。普通なら高くて買えないもの、普通なら「こんなに高いのなら買うのをやめよう」というものを安く見せかけている。
本当にこれでいいのだろうか。日本の携帯電話市場だけこんな異常な状態にしておいて、日本の携帯電話メーカーは世界で生き残れるのだろうか。世界で売れ筋の携帯電話にもっとも力を入れる携帯電話メーカーが日本で育たなくても本当にいいのだろうか。人ごとながら、心配になった次第だ。(でも、恩恵には預かったので大きな声で文句は言えない)
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