2008-04-27

組織にもの言える技術者になろう2

Tech-On! にリコー 社長 近藤 史朗 氏のコラム『旧来の手法では最先端の製品は開発できない』が載っていた。

【『旧来の手法では最先端の製品は開発できない』より引用】

 ・・・設計者というのは変な話ですが「体を使う」と,ものすごく仕事をした気になるんです。分かりますでしょうか,この言い方で。例えば,発売日に間に合わせるためにみんなで徹夜して頑張ったとか,会社の言うことに逆らってプロジェクトを進めたとかいうエピソードは,多くの会社にあると思います。そして,最終的にはプロジェクトが成功に終わる。これが体を使うという感覚です。しかし複写機の場合,昔のような少人数のプロジェクトチームが徹夜して仕上げるようなやり方では,もう最新の製品は開発できません。

 僕が現場の最前線で開発に取り組んでいた時は,本当に少数の部隊で商品開発をやっていて,不眠不休でやるっていうのが当たり前でした。新製品の開発なんだから,そうやるものだという思い込みもありました。しかし,今のリコーで一切そういうことは許さない。そうしたやり方は悪だと宣言しています。

【引用終わり】

複合複写機の世界では1990年代に従来の力ずくのソフトウェア開発では立ちゆかなくなったため、各社ともオブジェクト指向設計を含むソフトウェア開発手法の改善を行ったと聞いている。おそらく、システムソフトウェアの規模が30万行を超えたのだと思う。

その過渡期を経験し、「このままではダメだ」と実感したことのある人がトップになるとこのような発言ができるのだろう。うらやましい。

逆に言えば、システムの規模が30万行を越えてきているのに、徹夜を美徳としているようなトップなら悪循環が一層進みかねない。

そんな環境下でエンジニアが目指すべきことは何か?

それは、技術を磨いてどんな環境でも通用するエンジニアになり、組織の中において個人商店として成り立つように立ち振る舞うことだと思う。

自分自身が個人商店だと考えれば、自分に仕事を振ってくる他部門や上司は大切なお客様であり、彼らが満足する仕事をアウトプットすることで対価を稼いでいることになる。

そんな一番近い位置にいる「お客様」に面と向かって文句を言っていいのは、彼らがエンドユーザーの不利益になるようなことを依頼してきたり、命令してきたりしたときだ。

簡単に言えば「偽装を指示された」ようなときだ。そこまではっきりしていなくても、セクショナリズムからくる意地の張り合いなどでエンドユーザーの利益にならないことを平気で指示するような上司はいる。

こういうときは我慢せずに言いたいことを言う。そういうことが積み重なるようならしかるべきところに直訴すべきだし、それでもだめならあまり迷わずに組織を出た方がよい。

そのとき拾う神があるかどうかは、自分自身が技術を磨いてきたかどうかにかかっている。

理系は文系よりも出世が遅いと理系白書に書いてあったが、理系の中でもソフトウェア出身の技術者が組織の上位層に上がるのは遅いかもしれない。組込みソフトエンジニアはものわかりのよい上ばかりではない世界だということを認識しつつ、組織の中における自分の立ち位置をどこに持って行くべきかを考える必要があると思う。
 

2008-04-18

組織に物言えるエンジニアになろう

4月16日に『ビクター、国内家庭用薄型テレビから撤退へ』というニュースが流れた。

せっかく『パフォーマンスを商品の価値に置き換えられない日本の企業』の記事で、起動時間が3秒と早くなったビクターの液晶テレビにエールを送ったのに、撤退してしまうとは。

この手のニュースは経営陣の判断となるため現場の技術者には知らされず、ニュースが流れる直前、もしくは一般のニュースソースから伝わって「そんなの聞いていない」ということになったりする。

せっかく開発してきた製品が日の目を見なかったり、市場から撤退されたりするのが、エンジニアとして一番辛い。商品として市場に出て行かなければ、自分の努力が実ったのかダメだったのか永遠に評価されることがない。「もの」が世に出て行かなければ、顧客満足を計ることができないため、何を改善すればよいのかわからなくなってしまうのだ。

だから、エンジニアや組織はものづくりを始めたら絶対に商品をリリースしなければいけない。途中であきらめる技術者はどんなにスキルが高くてもプロフェッショナルとはいえない。我々組込みソフトエンジニアは、ものを世に出してお客さんに喜んでもらって、その対価をもらっている。当たり前だが、ものを世に出せなければ対価をいただくことはできない。

その観点から考えると、「市場からの撤退」はいろいろな理由はあるにせよ、ものを世に出し続けても利益にならないという経営的な判断があるのだと思う。

なぜ、利益にならないのか?

それは単純な理由であって、競合製品に対して、機能や性能、コスト、使いやすさなどで差別化できないからだと思う。まれに、コマーシャルやキャッチフレーズ、ブランド力で機能、性能、コスト等で負けていても、売り上げが大きいことはあるが、そういうアプローチは何回も続かないものだ。同じ市場に同じような製品を投入し続ける組込み製品では、ユーザーは同じ目的で使う商品を一生のうちに何回も買い替えるので、だんだん目が肥えてくるし、一回痛い目にあったら次は同じ轍は踏まないようになる。

日本ビクターの「起動3秒」というおそらく他社にはないアドバンテージは、液晶テレビのケースでは市場要求・ユーザー要求の基本要件ではなかったということだろう。

一ユーザーとして液晶テレビに対する要求品質を考えてみる。

1) 画面が大きい
2) 画像がきれい
3) 安い
4) 消費電力が小さい
5) 録画ができる。(簡単にレコーダと接続できればそれでもよい)
6) 操作が簡単。
7) 起動が速い。

一応、自分の中の優先度順に並べてみたのだが、組込み製品の場合たいてい背反する要求がある。例えば、「画面が大きく」「画像がきれい」と「安い」は普通背反する。

もちろん、「画面が大きく」「画像がきれい」で「安い」液晶テレビを作ることができれば、他社に対して差別化できる。でも、同じ人間が作っているのだから実現するのは簡単ではない。

自組織の成熟度やスキルレベルをよく考えずに、単純に「画面が大きく」「画像がきれい」で「安い」液晶テレビを作れと指示する上がいる組織では、実現不可能のしわ寄せが末端に伝達され、最終的に末端のソフトウェアエンジニアが泣きを見ることが多い。初代ウォークマンのような技術的イノベーションは、そこら中のプロジェクトでできるわけではないのに、ソフトウェアをブラックボックスと見ている偉い人に限ってソフトウェアを魔法の箱と見なし実現しない夢を見てしまうのだ。

組込み機器開発では最後の工程がソフトウェアの最終調整(作り込み?)なるため、分析力の低い組織では、もしかしたらできるかもしれないという期待も、できなかったときの言い訳も、矛先が組込みソフトウェアになってしまう傾向がある。

じゃあ、技術者はどうすればいいのかと言えば、市場要求とユーザーニーズをよく分析して、要求に優先順位を付け、背反する要求に対してはどこで折り合いを付ければいいのかをディスカッションし、他社の製品に対してアドバンテージをもてる商品コンセプトとシステム要求仕様、ソフトウェア要求仕様を作成するしかない。

商品企画を考えたのは自分じゃないというスタンスを取っているエンジニアは、経営層が商品の撤退を決めても文句は言えない。もしも、他が真似できない技術をもっていて、その技術を活かした商品を世に出したのに二束三文で売られていたり、経営層が撤退するなどと言うのなら、その技術を持ってスピンアウトすればいいのだ。

どっちにしても、エンジニアはハードもソフトも含めて自分たちの得意な技術は何か、それを実際に使って商品化した実績はあるのかどうか、お客さんに喜んでもらえたのかどうかを、他人に説明できるようでなければダメだと思う。

それができないのなら、どんなに組織の中でモチベーションを下げるようなひどい仕打ちを受けても、黙って従うしかないのだ。

もっと、「これが俺の製品だ!」と胸張って言えるようにならないとダメだよ、みんな。

もちろん、その自負の裏には、人一倍勉強しているという努力や責任感、評価を真摯に受け止める心構えが必要だけど・・・

自分のやってきたこと、やっていることが組織にどのように貢献し、お客さんにどのような満足を与えているのかを常に考えているエンジニアが、組織の中で自分の考えを堂々と主張できるのだと思う。
 

2008-04-14

安全ソフトウェアの設計

安全ソフトウェアの設計に関して、組込みZine に記事を書いています。第2回 エレベータの安全ソフトウェア設計 の記事が公開されましたので、今週はそちらをご覧ください。

※記事を最後まで読むには、無料の会員登録が必要です。

【安全ソフトウェアの設計】

第1回 組込みソフトウェアに求められる安全対策
第2回 エレベータの安全ソフトウェア設計

P.S.

シンドラーのエレベータ事故では、ブレーキが摩耗したことにより、システムはロープを止めているつもりなのに釣り合いおもりの重さ(通常は最大乗員の半分の重さに設定)によりカゴが上がってしまい自転車に乗ったままの少年が乗り場側扉の上部に押しつけられてしまったという説があるようです。

この第2回 エレベータの安全ソフトウェア設計の記事は、シンドラーのエレベータ事故に触発されて考えた内容ですが、ソフトウェアの不具合によって事故が起きたことを断定しているのではありませんのでご了承ください。