2008-04-18

組織に物言えるエンジニアになろう

4月16日に『ビクター、国内家庭用薄型テレビから撤退へ』というニュースが流れた。

せっかく『パフォーマンスを商品の価値に置き換えられない日本の企業』の記事で、起動時間が3秒と早くなったビクターの液晶テレビにエールを送ったのに、撤退してしまうとは。

この手のニュースは経営陣の判断となるため現場の技術者には知らされず、ニュースが流れる直前、もしくは一般のニュースソースから伝わって「そんなの聞いていない」ということになったりする。

せっかく開発してきた製品が日の目を見なかったり、市場から撤退されたりするのが、エンジニアとして一番辛い。商品として市場に出て行かなければ、自分の努力が実ったのかダメだったのか永遠に評価されることがない。「もの」が世に出て行かなければ、顧客満足を計ることができないため、何を改善すればよいのかわからなくなってしまうのだ。

だから、エンジニアや組織はものづくりを始めたら絶対に商品をリリースしなければいけない。途中であきらめる技術者はどんなにスキルが高くてもプロフェッショナルとはいえない。我々組込みソフトエンジニアは、ものを世に出してお客さんに喜んでもらって、その対価をもらっている。当たり前だが、ものを世に出せなければ対価をいただくことはできない。

その観点から考えると、「市場からの撤退」はいろいろな理由はあるにせよ、ものを世に出し続けても利益にならないという経営的な判断があるのだと思う。

なぜ、利益にならないのか?

それは単純な理由であって、競合製品に対して、機能や性能、コスト、使いやすさなどで差別化できないからだと思う。まれに、コマーシャルやキャッチフレーズ、ブランド力で機能、性能、コスト等で負けていても、売り上げが大きいことはあるが、そういうアプローチは何回も続かないものだ。同じ市場に同じような製品を投入し続ける組込み製品では、ユーザーは同じ目的で使う商品を一生のうちに何回も買い替えるので、だんだん目が肥えてくるし、一回痛い目にあったら次は同じ轍は踏まないようになる。

日本ビクターの「起動3秒」というおそらく他社にはないアドバンテージは、液晶テレビのケースでは市場要求・ユーザー要求の基本要件ではなかったということだろう。

一ユーザーとして液晶テレビに対する要求品質を考えてみる。

1) 画面が大きい
2) 画像がきれい
3) 安い
4) 消費電力が小さい
5) 録画ができる。(簡単にレコーダと接続できればそれでもよい)
6) 操作が簡単。
7) 起動が速い。

一応、自分の中の優先度順に並べてみたのだが、組込み製品の場合たいてい背反する要求がある。例えば、「画面が大きく」「画像がきれい」と「安い」は普通背反する。

もちろん、「画面が大きく」「画像がきれい」で「安い」液晶テレビを作ることができれば、他社に対して差別化できる。でも、同じ人間が作っているのだから実現するのは簡単ではない。

自組織の成熟度やスキルレベルをよく考えずに、単純に「画面が大きく」「画像がきれい」で「安い」液晶テレビを作れと指示する上がいる組織では、実現不可能のしわ寄せが末端に伝達され、最終的に末端のソフトウェアエンジニアが泣きを見ることが多い。初代ウォークマンのような技術的イノベーションは、そこら中のプロジェクトでできるわけではないのに、ソフトウェアをブラックボックスと見ている偉い人に限ってソフトウェアを魔法の箱と見なし実現しない夢を見てしまうのだ。

組込み機器開発では最後の工程がソフトウェアの最終調整(作り込み?)なるため、分析力の低い組織では、もしかしたらできるかもしれないという期待も、できなかったときの言い訳も、矛先が組込みソフトウェアになってしまう傾向がある。

じゃあ、技術者はどうすればいいのかと言えば、市場要求とユーザーニーズをよく分析して、要求に優先順位を付け、背反する要求に対してはどこで折り合いを付ければいいのかをディスカッションし、他社の製品に対してアドバンテージをもてる商品コンセプトとシステム要求仕様、ソフトウェア要求仕様を作成するしかない。

商品企画を考えたのは自分じゃないというスタンスを取っているエンジニアは、経営層が商品の撤退を決めても文句は言えない。もしも、他が真似できない技術をもっていて、その技術を活かした商品を世に出したのに二束三文で売られていたり、経営層が撤退するなどと言うのなら、その技術を持ってスピンアウトすればいいのだ。

どっちにしても、エンジニアはハードもソフトも含めて自分たちの得意な技術は何か、それを実際に使って商品化した実績はあるのかどうか、お客さんに喜んでもらえたのかどうかを、他人に説明できるようでなければダメだと思う。

それができないのなら、どんなに組織の中でモチベーションを下げるようなひどい仕打ちを受けても、黙って従うしかないのだ。

もっと、「これが俺の製品だ!」と胸張って言えるようにならないとダメだよ、みんな。

もちろん、その自負の裏には、人一倍勉強しているという努力や責任感、評価を真摯に受け止める心構えが必要だけど・・・

自分のやってきたこと、やっていることが組織にどのように貢献し、お客さんにどのような満足を与えているのかを常に考えているエンジニアが、組織の中で自分の考えを堂々と主張できるのだと思う。
 

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