2020-04-21

『ソフトウェア系国際規格の認証の現状について』の記事に対するコメントと回答

2019-10-20に投稿した『ソフトウェア系国際規格の認証の現状について』の記事に対して2020-02-10にコメントをもらっていて、確認&承認を忘れており、昨日気が付いて承認をしました。2ヶ月以上放置してしまい申し訳ありません。

改めて、コメントの内容をここで紹介し、回答も書きたいと思います。

ーーーーコメント ーーーー

匿名 さんのコメント...
いつも有益な記事をありがとうございます。
汎用ソフトウェアが医療ソフトウェア規格の認証を受けることは意味が無いということは、ソフトウェアを含む医療機器開発には、汎用OSはもちろん、コンパイラが提供するライブラリも使用できないということですね?
リアルいタイムOSはもちろん、Linuxのような巨大なOS相当も、意図する使用を考慮してフルスクラッチが必要であるということですね?もしくは、LinuxクラスのOSは使用してはいけないということですね?
C言語ならいざ知らず、C++やJava 等の言語のメカニズムに相当する部位も汎用ソフトウェアと言えますから、それも使えないということですね?

ーーーーコメントに対する回答 ーーーー

さて、「汎用ソフトウェアが医療ソフトウェア規格の認証を受けることは意味が無いということは、ソフトウェアを含む医療機器開発には、汎用OSはもちろん、コンパイラが提供するライブラリも使用できないということですね?」のご質問に回答します。

汎用ソフトウェア(OTS: Off The Shelf Software)は OTS として検証・評価を行います。IEC 62304 はリスクベースアプローチを採っているため、何に使うのかが定まっていない状態で、リスクベースアプローチのプロセス規格を適用することは意味がないと言っているのであり、医療機器にOTSを使用できないとは一言も言っていません。

米 FDA は 医療機器に使用するOTSに対するガイダンスを発行しており、このガイダンスでは「そのOTSを医療機器に使用したときの懸念レベルを定めて、ハザード分析すること」を医療機器の製造業者に求めています。また、OTSの検証・評価も必要です。これもリスクベースアプローチです。

これについても勘違いしているOTSベンダーが多いのですが、OTSベンダーができるのはOTSの検証(=Verification)の部分であり、OTSが医療機器に使われたときの懸念レベルの推定やハザード分析は、医療機器製造業者が行います。正確には、その OTSを何に使うのか知っている医療機器製造業者しか、懸念レベルの推定やハザード分析はできないということです。

もちろん、Windows や Linux を医療機器に使用することもできますが、それらOTSを医療機器に使用したときのリスクの分析(OTSに障害が起きたときの患者への危害の重大さや発生確率の分析と評価)がもとめらます。

記事の中でも説明したつもりですが、機能安全のアプローチである認証が取れたOTSを使用することを求めるという考え方と、意図する使用(=Intended Use)を明確にした上で、リスクベースアプローチでOTSを使用するという考え方は、元のコンセプトが異なるということです。

リスクベースアプローチの考え方であっても、OTSが使えないということはありません。OTSがどんな用途の医療機器に使用するのかを分析した上で、必要な検証、評価を求めています。

また、コンパイラは 医療機器に組み込まれるソフトウェアではないものの、製品の品質に影響を与えるQMSソフトウェアであることから、そのリスクレベルに応じてバリデーションを求められます。(ISO 13495:2016 より)

さらに、近年の医療機器規制の中のサイバーセキュリティ要求により、汎用ソフトウェアの脆弱性の監視とパッチ対応は医療機器製造業者に対する義務となりつつあります。

いずれにせよ、汎用OSやコンパイラが医療機器に使えないということは一切ありません。

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