2016-10-14

IEC 62304 実践ガイドブック概説(3)-これだけでも価値ある「付録」-

IEC62304実践ガイドブックには7つの付録が付いている。これらの付録は海外に医療機器を輸出する組織にとっては価値のある情報である。

この付録だけのためにガイドブックを買ってもいいのではないかとさえ思う。

付録の1~4までは米国FDAが発行する医療機器ソフトウェア向けのガイダンスの邦訳,付録5が中国CFDAのガイダンスの邦訳,付録6と付録7がIEC 62304に関連した比較表である。FDAガイダンスは原文(英語)はFDAのWEBサイトで無償で閲覧できる。

IEC 62304 実践ガイドブック 付録一覧
No.
原文タイトル
参考和訳タイトル
発行日
付録1
General Principles of Software Validation; Final Guidance for Industry and FDA Staff
ソフトウェアバリデーションの一般原則
2002111
付録2
Guidance for Industry, FDA Reviewers and Compliance on Off-The-Shelf Software Use in Medical Devices
医療機器における既製(OTS)ソフトウェアの使用に関するガイダンス
199999
付録3
Guidance for the Content of Premarket Submissions for Software Contained in Medical Devices
医療機器に含まれるソフトウェアのための市販前申請の内容に関するガイダンス
2005511
付録4
Cybersecurity for Networked  Medical Devices Containing Off the-Shelf (OTS) Software
市販(OTS)ソフトウェアを含むネットワーク接続医療機器のサイバーセキュリティ
2005114
付録5
器械件注册技术审查
医療機器ソフトウェア申請技術審査指導原則
201585
付録6
IEC 62304:2006 Amd1:2015 における追加・修正部分一覧表
付録7
IEC 62304/米国FDA/CFDAソフトウェア要求比較表(目安とするための参考資料)

FDA が発行するガイダンスは下記 Point 10.5 で紹介されているように,「適用される法的要件及び規制要件を満たすものであれば,代替的アプローチを用いて構わない」と説明されているが,FDAの監査官はこれらのガイダンスについて教育を受けているので,ガイダンス通りでなければ当然照会(質問)が来る。ガイダンスの要求内容と提出書類にギャップがある時には「あなたはガイダンスを読んでいるのですか?」と突っ込まれることもある。「アメリカに医療機器を輸出したいのなら,ガイダンス読んでいるのは当然だろ」ということだ。

IEC 62304 実践ガイドブック 「Point 10.5  FDAガイダンスの拘束力」より引用
FDAのガイダンスのほとんどに下記のような但し書きが書かれています。これは,ガイダンスの書かれた要求が絶対条件ではなく,代替的アプローチがあればそれを用いても構わないということを言っています。 
本ガイダンスは食品医薬品局(FDA)のこのテーマに関する現在の考えを表すものである。これは何人に対してもいかなる権利を生じるもしくは付与するものではなく,またFDAまたは国民を拘束するために機能するものではない。適用される法的要件および規制要件を満たすものであれば,代替的アプローチを用いて構わない。代替的アプローチについて協議したい場合は,本ガイダンスの施行を担当するFDAスタッフに連絡されたい。 
だから,上記のように書かれていても,FDA が発行するガイダンスは従っていないと許認可が遅れるので,実質的には規制要件だと考えておいた方がよい。

そう考えると 米国に医療機器を輸出するのならば 付録3 の「医療機器に含まれるソフトウェアのための市販前申請の内容に関するガイダンス」を隅々までよく読んで,このガイダンスの通りに必要な書類を準備しておく必要がある。

一方,付録5 は 中国の規制当局であるCFDA が発行する「医療機器ソフトウェア申請技術審査指導原則」の参考和訳で,構成は付録3の米国FDAの市販前申請ガイダンスとよく似ている。

CFDAは,米国FDAの医療機器ソフトウェアの市販前申請の方法を下敷きにしており,米国のやり方に中国独自の条件を追加している。どちらのガイダンスもその通りにドキュメントが準備できていなければ,何回も照会されて審査が長引いてしまう。

付録3 と 付録5 は米国と中国の医療機器ソフトウェアの市販前申請に対する要件なので,特に重要な情報と言える。

ちなみに,医療機器の輸出を考えている企業の頭痛の種は,各国の規制当局が課す医療機器ソフトウェアに対する要件がそれぞれ微妙に違うという点だ。

IEC 62304 が国際規格だから,これに従っていればいいのかと言えば,そうはいかない。米国FDAも中国CFDAも,要求が少しずつ異なっている。

中国では2012年04月28日にCMDE(医療機器技術審査センター)が医療機器ソフトウェア登録基本要求を策定し,この中でソフトウェアのバージョンを変更したら,申請もやり直しというルールを作り,世界中から批判を浴びた。そこで,2015年8月5日に,CFDA(国家食品薬品監督管理局)が医療機器ソフトウェア登録技術審査指導原則を発行して,このルールを変更した。変更に際しては中国独自の判断基準を設けている。


なお,米国FDA は IEC 62304 を認知規格としているものの,実際すべての監査官,査察官が IEC 62304 を熟知しているかといえばそうではない。FDAガイダンスの方を重点的に教育されている。

当然だが,米国にとっては,米国の規制当局が発行するガイダンスの方が国際規格よりも優先なのだ。

だから,各国に医療機器を輸出する企業は,国際規格と各国のガイダンス要求の差異を認識した上で,それらの最大公約数のドキュメントを用意して各国の規制に合わせて提出書類をアレンジしなければならない。

そのとき,ガイドブックに付いている 付録7 の IEC 62304/FDA/CFDA 要求の比較表が役に立つ。

また,IEC 62304 は 2006年の初版と 2015年の 追補1 版が現存する。2006年の初版で組織内の手順を構築してきた場合,追補版で何が変わったのかその差分を認知した上で,手順の変更検討する。ちなみに IEC 62304 Amd1 は IEC 62304:2006 からの移行に関して期限のようなことは一切書いていない。現時点は,各国とも移行期限を通知していないので,いつまでに移行しなければいけないのか明確な締め切りは今のところない。

ただし,EUや日本が採用している医療機器に基本要件では下記のように「最新の技術に基づく開発ライフサイクルに従い・・・」 とあるので,いずれは IEC 62304 Amd1 の方をベースにした手順にすることが必要になると思われる。

12.1a.   For devices which incorporate software or which are medical software in themselves, the software must be validated according to the state of the art taking into the account the principles of development lifecycle, risk management, validation and verification

このとき役立つのは 付録6の「IEC 62304:2006の Amd1:2015 における追加・修正部分一覧表」だ。


付録6 は追加・修正部分だけでなく,Amd1 の目次全部が掲載されているので,これ自体をIEC 62304 Amd1 の要求が網羅されているかどうかのチェックシートとすることもできる。(Excel版は,JEITA ヘルスケアインダストリ事業委員会/医療用ソフトウェア専門委員会に参加すると入手できる)

ちなみに,付録1 のソフトウェアバリデーションの一般原則 はガイドブック上で30ページの大作となっており,これを原文で読むのはなかなか大変な量の文章だ。このガイダンスは 2002年に最後の改訂がされており,FDA のソフトウェアバリデーションに対する考え方が書かれている。

ガイダンスが対象としているのは,製品に搭載するソフトウェアだけでなく,医療機器を製造したり,検査する際に使うソフトウェアのバリデーションも含まれている。この考え方は ISO 13485:2016(医療機器-品質マネジメントシステム-規制目的のための要求事項)にも新たに取り入れられた。

US FDA は世界に先駆けて医療ソフトウェアに関するガイダンスを発行し,運用の実績を根拠に,ガイダンスの要求内容を国際規格に反映させてグローバルスタンダードにするという戦略を着実に実行している。

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