第一回目の投稿は今でもここに残っている。
この本が出版されるまでは自分も技術書の一読者だった。それ以降は技術書の出版や雑誌の編集についてその裏舞台も知ることになる。
読む側の立場だとあまり実感がないと思うが、今技術系の雑誌や本は売れない。技術系だけでなく本や雑誌全体が売れていない。2005年から2010年までの約5年間、ソフトウェア特に組込みソフトの雑誌や本が次々と出版された。今はそのブームは去っている。
製造業自体が大幅な落ち込みを見せている訳ではないので、出版業界が「組込みソフト」というキーワードに踊らされていたのかもしれない。
さて、2006年3月に日経BP社から出版された『組込みソフトエンジニアを極める』は初版の4000部がほぼ市場からなくなりかけたところで、増版はされないことが決定された。
理由は過去一年の売り上げのペースから考えると、増版したときのコストが見合わないという判断からだ。
本は出版するときに出版社がかなりのリスクを背負う。本を少しずつ刷るとコストが高くなるので、技術書なら概ね1000部以上は刷らないといけない。本を印刷するまでに、著者への印税の支払いやイラスト作成代、編集者の人件費等もかかり、印刷費用も数十万円はかかる。紙代、インク代も馬鹿にならない。
そして本の場合、日本では再販制度があるため書店はいくら書籍を仕入れても返品が可能で、倉庫代も出版社が持つことになる。
技術書の場合、1万部も売れればヒットの部類に入り、10万部売れれば大ヒットだ。しかし、それだけ売れても著者はその印税だけではとても食べてはいけない。何しろきちんとした本を作ろうとすると時間と労力がかかるので、まったく割に合わない。
しかも、今の技術者はインターネットから情報を仕入れてしまうので、あまり本や雑誌を買わない。技術系の出版社は非常に苦しい状況に立たされていると思う。
それでいいのかと思うが、これが現実だからしようがない。ちなみに電子出版に未来があるかというと必ずしもそうではないようだ。そこら辺の事情を知りたい方はペーパーバックスの『出版大崩壊 電子書籍の罠』文藝春秋 800円を読んでいただきたい。
読者のみなさんにアドバイスしておきたいのは、これからは絶版になる技術書も増えてくるので、「これはいい本だな」と思ったらためらわずに今かっておいた方がよいということだ。ネット書店だからといって在庫切れが起こらないとは限らない。中古品もネットで流通するようになったが、市場に出回らなくなってくると中古品でも定価の倍以上の値が付くこともある。
ところで、日経BP社から発売された『組込みソフトエンジニアを極める』は絶版になってしまい、Amazonを見ると中古品も品薄状態になりつつある。
もしも、将来この本を読みたいと思う人が現れたときに買えないのは著者としては非常に残念である。そこで、いろいろな方々に協力してもらいこの本を新刊として再出版することになった。
再出版といっても最初に出版した日経BP社にイラストや編集の権利があるため、自分自身のオリジナル原稿と図表をもとにまた編集を一からやり直した。編集は結果的に8ヶ月かかった。
この本や他の技術書に比べても異常とも言えるくらい図が多い。この図をトレースし直すのに時間がかかっている。
編集は、フレデリック・P・ブルックス Jr. の名著『人月の神話』の翻訳者で株式会社エスアイビー・アクセス 社長の富澤 昇氏にお願いした。
タイトルは前とは少し変わって『リアルタイムOSから出発して 組込みソフトエンジニアを極める』とした。理由は、リアルタイムOSのを使った実際の組込み製品のアプリケーションソフトの開発を題材にした本はあまり見たことがないのと、やはり組込みソフトエンジニアはリアルタイムOSから出発して、システムの時間制約をクリアし、大規模システムのアーキテクトもこなせるようになることがキャリアパスの本流ではないかと思ったからである。
前作と『リアルタイムOSから出発して 組込みソフトエンジニアを極める』の違いを示すと次のようになる。
- 一番大きい変更点。価格を買いやすくするために2800円から1800円に変更した。
- ページ数は296ページから260ページに減った。(1ページの文字数が増えた)
- 本の厚みが2/3ほどになった。(紙が薄くなったから。内容は同じ)
- 人物イラストは省いた。
- 5年経過して時代に合わなくなった文言等を修正。
人物イラストは若いエンジニアが成長していく姿をドラマ風に見せるために付けていたのだが、台詞だけでも十分にその雰囲気は伝わるし、やはり技術書なので中身で勝負しようと思い省いた。(イラスト入り外伝はまだ生きているので参考にされたし)
また、若いエンジニアに是非読んでもらいたいという気持ちから2800円だった定価を1800円に下げた。
中身は同じなので前作同様よい評価を得られることを祈っている。
若い技術者の方たちにはもっと本を読みなさいといいたい。もしかすると日本人が日本語で書かれた本を読む時代ではないのかもしれない。英語なら読者の数は一気に増えるので、英語の本を英語のままで読めるようになった方が情報収集の効率はよい。
でも、日本人の気質、日本特有の技術や仕事の進め方は英語の本の中には書かれていることはまれだ。そんな本を書くことを目指している。
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