2010-07-17

ジョン・コッターの企業変革ノート

ソフトウェアに関する改善活動を行っていると、テクニカルなことでは解決できないことにすぐにぶつかる。そこでいろいろなことを試してみるのだが、つい最近『ジョン・コッターの企業変革ノート』 という本に出会った。久しぶりに付箋を手にしながら読んでいる。

この本に書いてあることは至極納得できるし、ここ数年自分がやってきたことにも重なるし、この通りにやってみようかなと思わせる。

ジョン・コッターの企業変革ノート』のソリューションがうまくいきそうと思わせるには理由がある。この本の教訓は130もの組織の400名あまりの面談から得た情報(成功体験、失敗体験)から体系化されたものであるからだ。そもそも、ヒアリングの対象はアメリカの会社だろうから、そのまま日本の組織に使えないかもしれないが、日本人とアメリカ人の違いの奥にある人間としての共通項に響く部分も多々あると感じている。

まずは、紹介されている多数のエピソードのうちの一つを見ていただきたい。

【『ジョン・コッターの企業変革ノート』 -怒れる顧客を映したビデオ- より引用】
■怒れる顧客を映したビデオ  ティム・ウォラス

ある日、日頃の取引に感謝して得意先を夕食に招待した。当社の主力商品が話題になったところで、納品後に手直しを余儀なくされたと先方がこぼした。この製品は受注生産なので、おかしな話しだ。手直しには時間とカネがかかる。快く思っていないのは当然だ。

私は丁重に詫び、チームを組んでこの問題に早急に対処すると申し出た。誠意は伝わったはずだが、感動している様子はない。「この問題を御社の担当者に一度も話したことがないわけではありません。こちらの言うことは耳を貸してくれないのです」。先方の説明によれば、変更が必要な箇所を見つけたり、変更の方法を説明したりした時には、要求通りにするが、数週間後には元に戻っていると言う。「われわれは変更を何度もお願いしました。担当の方はうなずきはするものの、聞く耳を持たないようです」

この顧客から直接、話を聞いた人間は社内でもごく一握りだろう。しかも、この夕食の時ほど怒っているのは知らないだろう、とわたしは思った。そこで翌日、部下を出向かせるのでビデオで苦情を撮らせてもらえないかと打診した。先方は躊躇したが、わたしは真剣であり、お互いのためになるはずだと説明した。話し合いを重ねた結果、先方は少々、注文をつけたうえで、ビデオを撮ることを承諾してくれた。
翌日、数人の部下がビデオカメラを持って先方を訪ねた。すべてありのまま、包み隠さず喋ってほしいと頼んだところ、概ね、その通りにしてくれた。30分間収録したビデオは若干編集し、15分にまとめた。

工場の会議室に50人あまりの従業員を集めた。画面には、怒れる顧客が映し出された。従業員の反応は興味深いものだった。大半はただただ驚いているようだった。あまり顧客と接したことがなく、こうした強烈で否定的な声を聞いた経験がないのだろう。これは特殊なケースだと思った者もいたようだが、それでも画面に釘付けだった。ぽかんと口を開けている者もいる。当然ながら、顧客の方が間違っていると思う者もいた。「わかっていない」。「教えてやらなければいけない」「その理由は・・・」と口にする。だが、それは少数派だった。

ビデオ上映後、この問題をいかに解決するか、再発を防いで顧客に満足してもらうには何をすべきかを話し合った。次々とアイデアが飛び出した。もちろん、現実的でないものもあった。だが、話し合いは有意義だった。

このビデオは合計で400人あまりの従業員に見せた。ここでも少数ながら、自分が正しいと主張する者がいた。だが、同じ数だけ、「なんとかしなければ。対策を講じなければならない」と言う者がいた。自分たちの非を認めなかった者も、その後は工場に招いた顧客の声にもっと耳を傾けるようになったと思う。

ビデオはその後も撮り続けた。コストはほとんどかからない。これで問題がすべて解決できるわけではないが、改善を妨げる深刻な壁を取り払うのに役立った。この工場はもともと、当社が買収した企業のものだった。その企業は長らく業界をリードする立場にあったため、従業員は自分たちを万能だと考えていたのだろう。たしかに専門知識があり、仕事をよく知っている。だが、顧客を重視していなかった。「言いたいことはわかったから、仕事の邪魔をしないでくれ。われわれはプロで、あなたがたは邪魔でしかないことをわかっちゃいない」という態度をとっていたのだ。こうした態度では、行動を起こし、顧客のニーズに応えることができない。
【引用終わり】

この事例を見て「ああ、これをやってみたい」という衝動に駆られた。顧客満足を高めることは組織の誰もが考える共通の価値だ。だから、この価値を立脚して改善を促すことは正しいし、これまでもそうしてきた。しかし、ロジカルにテクニカルに責めるよりも、「見て、感じて、変化する」というアプローチの方が確実に効果があることを思い知らされた。

ソフトウェアは見えにくいから、この例よりもずっと「問題を見せて、感じさせる」のは難しいが、それができなければ変革は起きないというのは、その通りだという実感がある。

ジョン・コッターの企業変革ノート』では、変革を成功に導くにはつぎに紹介する8段階を経る必要があると説いてる。第1段階の危機意識を高めるは、霊感商法のような感じもするが、でも、よく考えてみれば危機意識を共有できずに変革などできるはずもない。危機意識を高めるには、誠実な気持ちで本当の解決すべき問題を見せなければいけない。

【『ジョン・コッターの企業変革ノート』 The Heart of Change より引用】
<大規模な変革を成功に導く8段階>

■第1段階 「危機意識を高める」

大企業であろうと非営利の端末グループであとうろと、大規模な変革に成功した人びととはまず、関係者の間に「危機意識」を生み出している。ここでいう「関係者」とは、小規模な組織なら5人ではなく100人に、大規模な組織なら50人ではなく1000人に近いはずである。変革が順調に進まなかった事例では、変革リーダーが、5人あるいは50人を目標にするか1人も目標としておらず、現状満足や不安や怒りなど、ほぼ必ず起こる感情・・・変革の足かせとなる感情を容認してしまう。ときに創造的な手段で危機意識を喚起すれば、関係者がソファから跳び上がり、安全地帯から飛び出して、動き出す用意をする。

■第2段階 「変革推進チームをつくる」

危機意識が高まれば、変革の旗手を集め、変革の主導に必要な信頼、スキル、人脈、評判、権限を備えた変革チームをつくる。変革チームは、互いに信頼し、熱意を持って結束して行動する。変革が順調に進まなかった事例では、一人だけに頼ったり、誰も主導しなかったり、タスクフォースや委員会に力がなかったり、複雑な管理体制を築いたりしており、いずれに場合も変革を主導できるだけの地位やスキル、力が欠けている。タスクフォースをつくったものの、変革を生み出すだけの力がないために失敗した事例はきわめて多い。

■第3段階 「適切なビジョンを掲げる」

変革に成功した事例では、変革推進チームが、賢明で簡明で心躍るビジョンや戦略を策定している。変革がそれほど順調に進まなかった事例では、詳細な計画や予算だけを策定している。これらも必要であるが、それだけでは十分ではない。世界市場の動向や自社の状況にそぐわないビジョンを策定している場合もある。変革に失敗した事例では、戦略の動きが鈍く、慎重すぎて、激しく変化する世界にそぐわないものになっている。

■第4段階 「ビジョンを周知徹底する」

次ぎにビジョンや戦略を周知徹底する。シンプルで琴線にふれるメッセージを情報の溢れていない、いくつものチャネルを通して伝える。その目的は、成果を出すのに十分な数の人たちの理解を促し、やる気を引き出し、エネルギーを解放することにある。ここでは言葉よりも行動が重要になる。シンボルの効果は大きい。繰り返しも重要である。変革が順調に進まなかった事例では、効果的なコミュニケーションが不足していたり、下手だったりするが、そのことに気づかない場合が多い。

■第5段階 「自発的な行動を促す」

変革に成功した事例では、自発的に行動する人が増える。ビジョンに基づく行動を妨げていた大きな障害が取り除かれる。変革リーダーが特に重視するのは、部下のやる気をくじく上司の情報の不足、情報システムの不備、各人の心のなかにある自信というカベ、といった障害である。重要なのは、「権限を与えること」ではなく、障害を取り除くことである。権限は袋に入れて渡せるようなものではない。変革が順調に進まなかった事例では、権限を与えられた従業員は、障害だらけのなかで独力で突き進むように求められる。そのため苛立ちが募り、変革は行き詰まる。

■第6段階 「短期的な成果を実現する」

変革に成功した事例では自主性を持った人びとがビジョンに基づいて動くようになると、短期的な成果を生み出す。成果は欠かせないものである。成果が上がれば、変革が信頼され、資源が与えられ、勢いがつく。変革が順調に進まなかった事例では、成果が出るのが遅く、目に見えにくく、価値感に訴えず、成果であるかどうかもはっきりしていない。変革プロセスの管理が不適切で、最初に着手すべきプロジェクトが慎重に選択されず、早い段階で成果が上がらなければ、皮肉屋や懐疑的な者によって変革はつぶされる。

■第7段階 「気を緩めない」

変革に成功した事例では、変革リーダーはさらなる変革を推し進める。最初の成果が上がると、変革に勢いがつく。当初の変革が定着する。次ぎにどんな問題を克服するかを賢明に選択し、変革の波を次々と起こしてビジョンを実現する。変革が順調に進まなかった事例では、多くのことに一度に手をつけようとする。無意識に気を緩める。変革の勢いは衰え、絶望的なほど深みにはまる。

■第8段階 「変革を根づかせる」

変革に成功した事例では、各階層の変革リーダーが、新しい文化を育てることによって変革を根づかせている。新しい文化とは、ある集団で共有される行動規範や価値感であり、成果を生み出す行動が十分な期間続くことによって育まれる。ここでは適切な昇進人事を行ったり、新規採用者向けオリエンテーションを工夫したり、心を動かすイベントを行ったりすることによって違いが生まれる。それ以外の事例では、変革はもろく、表面的なものにとどまっている。伝統という風が吹けば、驚くほど短期間に、それまでの膨大な努力は吹き飛ばされる。
【引用終わり】

ジョン・コッターはハーバード・ビジネス・スクールで教鞭をとっているから、アメリカでは The Heart of Change について学べるということだ。日本ではどこで教えているのだろうか。また、日本の教育の中で、このような変革のメソッドをひとかけらでも教えているだろうかと考えてしまう。

小規模でも中規模でも何とかこの8段階をやり遂げて変革を起こしてみたいと思った。

2010-07-04

人財と人罪

あるセミナーでおもしろい図を見た。「じんざい」を四つの象限で表した図だ。縦軸はモチベーション、横軸はスキル。

  1. モチベーションが高く、スキルもある場合は組織の財産という意味で人財
  2. スキルは高いが、モチベーションが低い場合は単なる材料という意味で人材
  3. モチベーションは高いがスキルが低い場合は、居るだけだから人在
  4. モチベーションも低く、スキルもない場合は居るだけで罪だから人罪



もう一つの図。会社がリストラの必要性に迫られたときに、誰を残すかという指標。縦軸はビジョンを共有。横軸は仕事ができる。

  1. 組織とビジョンを共有し、仕事ができる社員は残す。
  2. ビジョンを共有できているが仕事はできない社員も残す。
  3. 仕事ができるがビジョンが共有できない者は会社を滅ぼす。
  4. ビジョンも共有できず、仕事もできない者は不要。



【楽に生きていきたいと思っていると楽に生きていけないというロジック】

  1. 楽に生きていきたい
  2. 責任を負いたくない
  3. 会社・相手に責任を転嫁する
  4. 信用が落ちていく
  1. 楽に生きていきたい
  2. 面倒は避けたい
  3. 処理が遅れる
  4. 信用が落ちていく
  1. 楽に生きていきたい
  2. チャレンジする意欲はない
  3. やれることしかやらない
  4. 信用が落ちていく
  1. 楽に生きていきたい
  2. 自分の利益が最優先
  3. 他は利用すべきもの
  4. 信用が落ちていく
結果として楽に生きていけない。依存型の人間にどのようなよい仕組みを与えても、依存型は依存型としてこれを利用する。

【自立型人材のモデル】
  1. 自分を活かして充実して生きていきたい
  2. 率先して取り組む
  3. 責任は自分が取る
  4. 自分への信用が増す
  1. 自分を活かして充実して生きていきたい
  2. 面倒なことから逃げない
  3. 処理が早い
  4. 自分への信用が増す
  1. 自分を活かして充実して生きていきたい
  2. チェレンジしたい
  3. 自ら新たな状況を作る
  4. 自分への信用が増す
自分への信用が増すことにより、楽しく充実した人生が送れる。

【コンピテンシーモデル】

職能資格制度の欠陥を払拭するために高業績者の成果達成の行動特性(業績・成果と連動した顕在的能力)を重視したコンピテンシーモデルが有効である。

タワーズ・ペリン社のコンピテンシー ※1
  1. コミュニケーション
  2. チームワーク
  3. 顧客志向性
  4. 成果達成志向
  5. 革新性/創造性
  6. ビジネス感応性
  7. リーダーシップ
  8. 自身及び他者の能力開発/育成
  9. 意志決定
  10. 順応性/柔軟性
  11. 問題解決
※1 コンピテンシーの定義の例 「継続的にその職務に求められる達成すべき最終成果責任を生み出すための効果的な行動を選択し、実際に行動に結びつけるという行動にフォーカスした能力で、しかも顕在的で他社から観察しうる行動レベルでの発揮能力」

【達成動機が強い人には成果に対するフィードバックを示すべし】

達成動機の強い人は成功報酬よりも個人的な達成感に関心を示すとともに、難しい問題に取り組んだり、解決すること自体に関心を示す。達成動機の強い人は自分たちの成果に対して具体的なフィードバックを求めることを強調している。

これは同感。解決すべき問題が部門間にまたがっているような場合、ルールやプロセスの変更が素早く承認されると達成感、満足感が生まれる。

ここまでの話し、どう考えても義務教育の学校では教えていないことばかりのような気がする。教えていないところか、正反対の依存型の人材を一生懸命作ろうとしていないだろうか?

改めて問題の根(依存型の社会人が多いという現状)は深いように思った。