2010-03-06

『リコールを起こさないソフトウェアのつくり方』を出版しました

技術評論社さんから『リコールを起こさないソフトウェアのつくり方』を出版しました。『組込みソフトエンジニアを極める』を2006年にリリースして以来4年ぶりの新刊本です。

※今回はですます調でいきます。

タイトルがタイトルだけにやけにタイムリーと思いになる方が多いかと思いますが、この本の企画は2008年の5月に提出したもので2年弱かけてじっくり仕上げた内容であり熟成の味の自信を持ってお届けいたします。

本に書いた内容は過去に技術評論社の組込みプレスに書いた記事が主体となっています。今回はソフトウェアの安全や信頼をテーマに、大規模、複雑化したソフトウェアにどのようにして問題が入り込むのかを実例をもとに解き明かし、日本のソフトウェアプロジェクトにフィットしたマネージメント技術および、ソフトウェアの品質と開発効率向上の両立を実現するためのソフトウェアの資産化の技術を解説します。また、付録で自動車分野向け機能安全規格 ISO 26262 に影響を与える MISRA SA(MISRA ソフトウェア安全解析ガイドライン)概要を紹介しています。

さまざまな電子機器がソフトウェアで制御されるようになった昨今、トヨタのハイブリッド車プリウスのブレーキ問題をはじめソフトウェアが絡んだリコールが年々増加しています。ソフトウェアは見えないだけに、何がどのようにして問題を起こしているのか簡単には解明できません。

今、プリウスのブレーキソフトウェアの改変リコールはホットな話題ですが、本書は決してこの問題が世間で取り上げられているからではなく、ずっと前からソフトウェアが要因となる、また関連するリコールが社会問題になることを予測して原稿を書いてきました。

【『リコールを起こさないソフトウェアのつくり方』はじめにより】
日本のソフトウェア製品やソフトウェア搭載機器がグローバルマーケットで支持され続けるためには、「品質がよく割安感のある商品」を市場にアウトプットしていかなければいけないと思っています。リコールを繰り返すような品質の悪いソフトウェアではダメなのです。

一方、ソフトウェア開発の側面を見ると、欧米で体系化されたソフトウェア品質改善の方法論の多くが日本のソフトウェアプロジェクトに紹介されています。ところが、日本のソフトウェア開発現場の多くでそれらが役に立っておらず形骸化しているように感じています。また、大部分の方法論は欧米で実践されているはずですが立ち遅れているといわれる日本のソフトウェア搭載製品のほうが品質が高いという事実があります。

それはなぜなのでしょうか。それならば、日本のソフトウェアプロジェクトはこのままの方法で開発を続けていればよいのでしょうか。この命題を解明し、ソフトウェア工学をどのように日本のソフトウェアプロジェクトに適用すると有効なのかを示すことができなければ、日本のソフトウェアエンジニアは決して幸せにはなれないと思っています。これが本書を書こうと思った動機です。

本書は、たとえば、次のような方に有用です。
  •  ソフトウェア開発の初級者の方
  •  新人でこれから目指すべき道筋が見えていない方
  •  ハードウェアエンジニアで「なぜ、ソフトウェアは問題を起こすのか」を常々疑問に思っている方
  •  ソフトウェアプロジェクトマネージメントの技術を学んでいて、どうして自分のプロジェクトでうまくいかないのか悩んでいる方
  •  組織内でソフトウェア品質問題に頭を抱えている方
その他にも、ソフトウェアの品質管理、構成管理、再利用資産、安全設計などに興味を持っている方にもおもしろく読んでいただけると思います。 まず、ソフトウェアエンジニアの新人や初級クラスの方は、Part1のソースコードのケーススタディを見て、自分がいまどのレベルにいて、何を学ばないとまずいのかを考えてみてください。きっと答えが見つかるはずです。中堅、ベテランのエンジニアのみなさんは、Part1でソフトウェアの本質的な危うさを認識し、日本人の特性を理解したうえで、日本におけるプロジェクトマネージメントの適用方法を Part2で学んでください。

そして、プロジェクトリーダーやソフトウェアアーキテクトとしての責務を負っている方は、ソフトウェア再利用資産の抽出方法を Part3で修得し、現行のソフトウェア製品群の開発効率と品質向上に役立ててください。
最後に、自組織のソフトウェア製品やソフトウェア搭載製品が市場で問題を起こしており、その問題を解決する責務を負っている方は、本書の最初から最後までを通して読み、ソフトウェアと日本人の特徴を理解し、自組織において何に手をつければよいのかを理解してほしいと思います。
本書が、初級や中級のソフトウェアエンジニア、アーキテクト、マネージャ、リーダーの方にソフトウェア品質の改善活動の参考書として役立つことを期待しています。

2010 年 3月 酒井由夫
【引用終わり】

リコールを起こさないソフトウェアのつくり方』目次

Part1 ソフトウェアの危うさの本質を体感してみよう
Chapter 1 ソフトウェアの危うさを知ろう
Chapter 2 危ないソフトウェアのプログラム例とケーススタディ
Chapter 3 ソフトウェアはなぜ危ないのか
Chapter 4 ソフトウェアの品質を高く保持するために
coffee break アメリカ人と日本人

Part2 日本的ソフトウェアプロジェクトの管理はここから
Chapter 5 ソフトウェア開発の理想と現実
Chapter 6 日本のソフトウェアプロジェクトに求められる取り組み
Chapter 7 ソフトウェア構成管理
Chapter 8 ソフトウェア変更管理
Chapter 9 レビュー
coffee break 問題解決能力:自ら考え行動する力

Part3 ソフトウェア資産化の技術がリコール防止につながる
Chapter 10 ソフトウェア開発のプラットフォーム
Chapter 11 ソフトウェアシステムとソフトウェア搭載機器の価値
coffee break 3 ものづくり戦略とソフトウェア品質:品質=Qualityの話
Chapter 12 再利用資産を抽出するためのアプローチ
Chapter 13 再利用資産を抽出する手順
coffee break 4 UML導入のススメ
Chapter 14 再利用資産の抽出のケーススタディ
Chapter 15 再利用資産の抽出後のアプローチ
coffee break 5 テストカバレッジ
Chapter 16 安全性が求められるシステムに対するアプローチ
Chapter 17 安全アーキテクチャの検討
Chapter 18 ソフトウェアを資産化して品質と開発効率を高める

本ブログサイトのヘビーユーザーの方は「なんか見たことある話し」と思うかもしません。そう、そのとおりでこのブログに書いた記事もふんだんに取り入れてあり今回のテーマに合わせて追加修正にして読みやすくなっています。

インターネット書店のアマゾンではすでに予約が始まっており、大手リアル書店では3/15の週に店頭に並ぶと思います。

このブログサイトでも是非、読者の方々と双方向の意見交換をしていきたいと思いますので、是非本書をお読みになり、ご感想、ご意見をどしどしお寄せください。

できる限りブログでも本に書いた内容の一端を紹介してさらに深い解説をしていきたいと考えています。

この本をリリースするにあたりご協力いただいた関係者の皆様には、この場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

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