2010-01-09

Validation(妥当性確認) と Varification(検証)

他人の失敗をネタにするのはちょっと気が引けるが、同じような失敗を犯さないように教訓として紹介しようと思う。

MATLAB / Simulink を販売する Mathworks から送られてきたダイレクトメールの話しだ。

MATLAB / Simulink は1988年より、日本での販売展開はサイバネットシステム株式会社が代理店業務を行っていた。しかし、2009年7月1日から販売代理店業務をMathWorks Japan(MathWorks社の日本法人)に移管された。

このように、日本で代理店が売り上げを伸ばしてくると本国が直営の法人を作って販売権を取り上げるという話しはよくある。そして、少なからずサービスの質が低下するシーンをよく見かける。

日本に独自の顧客環境があることを説明しても理解せず、シンガポールや中国、韓国でうまくいっているのに日本だけがダメなわけがないと突っぱね、強引に販売権を奪ってしまう。

自分は MATLAB / Simulink のユーザーではないが、MATLAB EXPO などでリサーチはしているので、ダイレクトメール2010年1月5日にオフィスに届いた。

宛先を見ると、郵便番号は空欄で、住所のフレーズのところどころが一文字ずつ欠けている。

例えば

東京都 の都が欠けて 東京 に

酒井 由夫 の酒が抜けて、 井 由夫 に

なっている。日本郵便は民営化後も優秀だ。郵便番号のなく、住所の各フレーズが欠けていている住所でも郵便物が届く。たぶん、意地でも送り主に返送したくなかったのだろう。なぜならスウェーデンから発送された郵便物だったからだ。

MathWorks は世界中のユーザーに スウェーデンからダイレクトメールを発送しているのあろう。それが、もっともコストが安いのかもしれない。スウェーデンから国際郵便でダイレクトメールを送っているが、住所は漢字で書いてある。JAPANだけが英語で書いてあるから、漢字に不備があっても日本までには届くのだ。スウェーデン人が漢字を読めるわけがないから、住所に問題があっても発送される。

中に入っていたのは無料CDの発送の申し込みと MATLAB EXPO 09 の申し込みの案内だった。

“はい、MATLABデモ、Webセミナー、ユーザー事例などに興味があります。無料CD をすぐに送付してください。” という文章の頭に□があってすでにチェックが入っている。この文章も日本人的には少し押しつけがましいように思えるが、世界中同じ内容で送っているのだろう。

送付先は シンガポールの郵便局の私書箱のようだ。

そして、MATLAB EXPO 09 の申し込み開始のご案内は 2009年12月2日に開催する展示会の案内で、展示会は一ヶ月前に終わっている。

この郵便が2009年中に発送され、スウェーデンのクリスマス休暇や日本の正月休みの影響があったのだとしても、これは明らかに MATLAB EXPO 09 が終わってから発送されたのだと思う。(消印はないのでいつ発送されたのかはわからない)

ダイレクトメールの中身は全部日本語で書いてあるから、発送作業者はこの間違いがまったく分からずに発送してしまっている。

この話しは単なる笑い話ではあるのだが、実は V&V ( Validation & Verification ) ができていないという教訓でもある。

Validation: 妥当性確認 は、要求仕様を満たしているかどうか、ユーザーニーズに合致しているかどうかの確認であり、 Verification: 検証は、仕様通りにできたかどうかのチェックである。

最大の相違点は ユーザーニーズに合っているかどうかを確認しているかどうかということだ。今回の Mathworks のミスは、Varification は実施していたのかもしれないが、 Validation をしていなかったということだ。

要するに、発送時にダイレクトメールを受け取る日本のユーザーのニーズに合っているかどうかを確認せずに商品をリリースしたということになる。

※この手の問題は日本の代理店が口を酸っぱくしてミスを訂正させるのだが、今回は代理店を通さずに送ったからミスが見つからなかった。

たぶん、スウェーデンのダイレクトメール発送センターに日本人のスタッフが一人もいなかったのか、もしくはいても Validation を実施するプロセスがなかったのだろう。

グローバルマーケットで商品を作っているとこのようなことはよくあるし、外国語の部分を業務ドメインに特化した情報と置き換えて見ると、このような問題(事故)は国内でも起こる可能性があるのだ。

例えば、商品の使用環境がよく知らないプログラマにソフトウェアの作成を外部委託し、要求仕様の漏れがあって、使用環境を想像してプログラムを作ったら、それが勘違いであり、ユーザーに迷惑をかけたというようなケースだ。これは外部委託されたときの仕様書がどれだけ完成度が高くても、発生する可能性がある。仕様書自体に間違いが含まれるからである。

このようなケースは Verification (検証)はOK だったが、Validation (妥当性確認)が NG だったということになる。

ユーザーの嗜好や思考は全世界で同じではない。すべてのユーザーを満足させることができる仕様があるとは限らない。だからこそ、Validation (妥当性確認)という行為は非常に重要なのだ。

ちなみに、QA担当は問題がわかったときに、問題を指摘し是正と再発防止策を打たなければいけない。この件に関しては自分自身では是正と再発防止策を採ることはできないので、キチンと、Mathworks Japan にこのようなミスがあったことを教えてあげた。(イヤミの意味ではなく、QA的立場から通知の義務があると思ったからだ)

その後、日本の営業担当の方から次のようなコメントが送られてきた。

お世話になっております。

マスワークスジャパン担当営業の○○と申します。

この度はMATLAB Expoのご案内でお見苦しい文面をお送りしてしまい。大変申し訳ございませんでした。

謹んでお詫びを申し上げます。また、ご指摘を頂き大変ありがとうございました。

只今原因調査と改善に向けて対応しておりますが、現状ではまだ不正確な文面が出力される可能性を消去出来ていない状況でございます。

ご迷惑をお掛けしました旨、重ねてお詫び申し上げます。

何かございましたらお気軽にご連絡頂ければ幸いです。

以上、宜しくお願いいたします。

何しろ、発送元がスウェーデンだから原因調査と改善は難しいだろう。(ブログネタにしてしまってゴメンね)

グローバルビジネスとはいかに難しいものか・・・

P.S.

スウェーデンと言えば、話題の スウェーデン作家 スティーグ・ラーソンのミステリー『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』を読み終えた。出てくる人物が多く名前を覚えるのが大変で、上巻は読むスピードが鈍ったが、下巻は一気に読み切った。なかなか面白かったし、この原作の映画化したものが近々日本で公開されるらしい。是非見に行きたいと思う。

スウェーデンというと日本とはほとんど関係がないと思っていたら、リンドグレーンの「長靴下のピッピ」「名探偵カッレ君」「IKEYA(最近話題の激安家具屋)」「H&M」「ボルボ」などが小説の中にでてきて親しみを感じた。

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