2008-03-08

三菱電機の携帯電話事業撤退で見えること

三菱電機が携帯電話事業から撤退することを決めた。

このニュースで驚いたのは三菱電機が作っていた携帯電話の数がシェアトップでもないのに2007年度で210万台もあったということだ。売上金額は1000億円とのこと。単純計算でも1台あたり4万7千円で売ったことになる。

これまで日本では消費者が知らないうちに携帯電話の価格の一部を通話料金に上乗せして月賦で払っていた。携帯電話のショップは携帯電話を1台売ると携帯電話のキャリアから販売奨励金を3~4万円程度もらっていた。(金額は正確でない) だから、携帯電話の売値を仕入れ価格よりも下げても赤字にならなかった。携帯を1円で売っても損しないカラクリはここにある。そして、この販売奨励金の金額は携帯電話のキャリアがユーザーから徴収する毎月の基本料金に上乗せしてしていた。

ローンでものを買うのが嫌いな人もいると思うが、ローンを組まされているとも知らずに実際の価格よりも見かけ上2~4万円も安く買っていた人が何百万人もいるということだ。

この携帯電話の価格を見かけ上安く見せかける販売方法は総務省の要請でもうなくなっている。この結果何が起こるか。それは、現在の日本の携帯電話の本当の価格が日の目にさらされるということだ。(総務省の通達:携帯電話に係る端末価格と通信料金の区分の明確化に関する携帯電話事業者等への要請

これまで3万円台で買っていたものが、販売価格が5万円くらいになり月々の通話料金が安くなる。1~2年使い続ければトータルで同じではないかと思うかもしれないが、本当にそうだろうか。

あなたは今携帯電話を持っていて特に不自由なく使えているのに、5万円も6万円もする新しい携帯電話を買い換えようと思うだろうか?

3万円なら少し考えて「よし買おう」という金額だと思うが、5万円の買い物をするのにはそれなりの決心がいるし、自分だけでなく家族を納得させるだけの根拠もいるだろう。

日本の携帯電話はNokiaなどの海外の携帯電話に比べて機能が(異常に)多いと言われている。確かに自分も携帯電話の機能を使い切れてはいない。

【よく使う機能】
・電話として使う
・メールを読み書きする
・今の時間を見る
・WEBブラウザでニュースを確認する

【たまに使う機能】
・写真を撮る
・パソコンにつないでパケット通信する
・アドレス帳の管理
・留守番電話を聞く

【滅多に使わない機能】
・音楽を聴く
・スケジュールを管理する
・アラームをかける
・動画を撮る、見る。
・QRコードを読み取る
・USBマスストレージとして使う
・電卓として使う

自分の場合、冷静に考えれば留守番電話を含む電話機能とメール、WEBブラウザだけでもいいかなと思う。

それなのになぜ、こんなにたくさんの機能を搭載した携帯電話を買うのか、ワンセグのテレビを見たいがために6万円も7万円も出費するのだろうか?

普通に考えれば、商品ラインナップの中でハイエンド機種は機能も多いが価格も高く出荷台数はスタンダードモデルよりも少ない。商品ラインナップの中間に位置するスタンダードモデルや下層のバリュアブルモデルが一番数がでるのが普通だろう。

日本では携帯電話では見せかけの販売価格のからくりがあったために、市場価格が故意にゆがめられ本当は価格が高いハイエンドモデルがばかばか売れていたのではないかと思う。

三菱電機が携帯電話事業から撤退した理由の一つに、今後ハイエンドモデルの売り上げは減り、ますます携帯電話で利益を上げるのが難しくなるという予測があったのだろう。傷口を広げる前の判断としてはタイミングがよかったのではないか。

今後、携帯電話の販売価格が軒並み2万~3万円高くなることで、組込みソフトの世界にも変化が現れそうだ。

日本人は組込み製品の商品コンセプトを考えるのが下手だ。その商品、その組織のアドバンテージとなる機能や性能を前面に出し、その他の部分をそぎ落として特長を際だたせることができない。どんどん機能を追加する。

特に、材料費のアップにつながらないソフトウェアの機能追加については「A社にあってウチにないのなら入れろ」とは言っても「その機能を入れると特長がぼやけるからやめておけ」とは決して言わない。

個人的にはプロダクトマネージャの商品に対する自信のなさがこう言わせているのではないかと思っている。商品をリリースしてライバル会社に売り上げで負けたときに「あっちには○○の機能があるが、ウチにはないからだ」と営業に言われたとき反論できないのでカタログスペック上だけでも他社に負けないようにしておきたいのだ。これではユーザーの本当のニーズを考えた商品開発ができていない。

一言でいえばユーザーオリエンテッドの仕様立案ができない、マーケティングができていない、商品戦略がないということなのだが、この傾向は日本全体に多く見られ組込みソフトエンジニアを苦しめる一つの要因になっている。

携帯電話の見せかけの販売価格の件は、何でもかんでも機能を突っ込めばいいという日本の企業によく見られる幼稚な商品戦略を助長させた。その結果、ユーザーはたいして使わない機能満載の商品を見かけ上本当の価格よりも2万円~3万円安いという理由で「まいっか」というノリで買っていた。

これまでの携帯電話の価格体系は「5万円とか6万円もするなら、もっとシンプルな機能の商品を買おう」という一番多い層の顧客の行動が表面にでないように消費者を暗に誘導してきた。

このことはグローバルマーケットでは Nokia などのシンプルな携帯電話が圧倒的に多く売れており、日本だけで本当は価格が高い端末が何百万台も売れていることで分かると思う。

さて、三菱電機の携帯電話事業からの撤退をきっかけに、携帯電話のソフト開発で食べてきた受託ソフトウェア会社は仕事を失うところが出てくるではないかと考えている。

携帯電話に限らず、日本の組込みソフトウェアはメーカーのエンジニア以上にソフトウェアの受託開発会社のソフトウェアエンジニアのマンパワーに頼っているところがある。

もちろん、日本では携帯電話以外にも組込みソフト技術者の需要はたくさんあるので供給が需要を上回ることはないと思うが、三菱電機の携帯電話事業の撤退で取引先のソフトハウスは新しい仕事を探すのにやっきになっているに違いない。

メーカーサイドは約600人の携帯電話関連の人員を別の部門に振り分けることができるが、ソフトハウスはクライアントとの付きあいをいったん切られると新たなつながりを探すのは意外に難しい。

三菱電機の携帯電話事業の売り上げが1000億円で、ソフトウェア開発費比率が仮に5%だとすれば開発費は50億円だ。この50億円の多くがソフトハウスへの発注だったとすれば、この仕事が突然なくなるわけだし、今後、業界全体で携帯電話の外部発注ソフトウェア開発自体が大幅に減る可能性がある。

極端な話、これまでユーザーは携帯電話の使いもしない付け足し機能のソフトウェア開発費に対して1台あたり5千円以上払っていたことになり、この5千円の積み重ねの50億円が今回消えることになったとも考えられる。

こんな局所的なバブルを生み出してしまった原因は日本の組込み機器メーカーの商品戦略のなさではないだろうか。日本の組込み機器メーカーもそろそろ新製品=(ソフトウェアによる)機能の付け足しという考え方をやめたらどうだろう。

機能を付け足すだけの頭を使う必要のない誰でも考えつく幼稚な商品戦略が減少し、贅肉をそぎ落として特長を際だたせるような骨太の商品コンセプトが当たり前になっていけば、その市場に投入すべき商品群の特長が明確になり、自組織の得意な部分を活かした再利用すべきソフトウェア資産がなにかが見えてくるはずだ。

本当かどうかは知らないが Nokia はそれを成功させたと聞いている。(プロダクトラインがNEのカバーストーリーに登場を参照のこと)
 

1 件のコメント:

sunada さんのコメント...

まったくその通り。
三菱電機が撤退する以前から,ソフトハウスのパワーシフトは大変な騒ぎと聞いてます。
その理由は,携帯ソフト技術者≠組込みソフト技術者であるためです。
では,ソフトハウスのパワーシフト状況はどのような状況にあるのか?
このことを取り上げた記事は見たことがありません。
ソフト業界に身を置く者として,実情を示し,早急にリストラクチャリングが完了することを願っております。