2006-10-15

ここが変だよ日本の管理職

テレビ東京で毎週月曜日22:00から放映している「カンブリア宮殿」の2006年10月9日放送でソフトブレーン創業者の宋 文洲氏がゲストだった。

【宋 文洲さんのプロフィール-ソフトブレーンWEBサイトより-】

85年に北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、すぐに倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、92年28歳の時にソフトブレーンを創業。経営を通して日本企業の非製造部門の非効率性を痛感した。
98年に営業など非製造部門の効率改善のためのソフト開発とコンサルティング事業を始めた。2000年12月に東証マザーズに上場。成人後に来日した外国人では初のケースとなる。 取締役会長 宋文洲
2004年経済界大賞・青年経営者賞を受賞。2005年6月1日には東証1部上場を果たし、業界最大手に成長。
営業改革を訴えた著書「やっぱり変だよ日本の営業」は、トヨタ自動車の張富士夫社長(当時)自身が購入し、営業系の役員を中心に配布。12万部に迫るベストセラー&ロングセラーに。
2006年、企業情報化協会・特別表彰を受賞。

【引用終わり】

宋さんは、自分が感じた日本の組織運営の変なところをズバズバと切る。言われてみればごもっともなことを遠慮せずにピシッと言ってくれるので、組織的問題で悩んでいる人にとっては小気味いい。逆に日本的な組織運営にどっぷり浸かっている人には耳が痛いだろう。

宋さんの本は『 やっぱり変だよ日本の営業―競争力回復への提案』の方が売れているようだが、自分は営業職ではないので、『ここが変だよ日本の管理職』の方を買って読んでみた。

【第2章 ここが変だよ 赤信号をみんなで渡る日本の管理職 より引用】

*-馴れ合い、もたれ合い

 儲からない会社には、いくつかの共通点があります。その一つは、間違っていることをはっきりさせないことです。
 たとえば、儲かっていない会社ですから、社内には儲かっていない部署が必ずある。そうしたら、その部署が儲かっていない原因をきちんと分析して、将来的にも厳しいようなら、その事業については撤退するなり手を打たなければならないはずです。でも、そんなことを言い出す管理職の人は、あまり見かけません。
 あるいは大きなミスをした人間がいる。でも、「この人がミスをしました」とは誰も言い出さない。しばらくしてから、「こんなことが起こりました。みなさん気をつけましょう」となるだけです。
 どうして、儲かっていない部署をどうすべきかと、はっきりさせないのでしょう。○○さんがこんなミスをしましたと、はっきり言わないのでしょう。自分の会社に責任を持たなければならない管理職の人たちが、なぜ口をつぐんでしまうのでしょう。
 少なくとも、他の部署や他の人の揚げ足を取り、個人攻撃をしようとしているわけではないのですがから、はっきり言わないのは変です。
 日本人のメンタリティーとして、表だって自分が何かについて批判するようなことが、精神的に堪えられないということもあるようです。そんなことをして、「あいつは他人のあら探しばかりするイヤなヤツだ」というレッテルを貼られるのが恐いのです。
 もっと言えば、自分たちの“ムラ社会”に波風を立てることによって、今度は自分が疎外されるのを恐れるからなのでしょう。
 私は、日本人の特性と言うよりは、お互いに信頼感が持てないことが、他人に対してズバッとものが言えない習性をつくり出す、大きな要因になっているのではないかと思っています。そのため、はっきりさせないほうが自分も安全なところにいられると考えてしまうのです。

【引用終わり】

ソフトウェア品質シンポジウムで大場充先生も言っていたが、日本人のエンジニアはソフトウェアレビューの際に確実に間違っているところしか指摘しない、「ここはこうした方がいい」というところも言えるようにならないとレビューにならない。それは宋さんが言うように「あいつは他人のあら探しばかりするイヤなヤツだ」というレッテルを貼られるのが恐いという心理だろう。

その根幹には「ISO9000やCMMIに違和感を感じませんか?」の記事でも書いたように、子供の頃から日本では「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」という教育を受けているという事実があると思われる。米国の「創造性と個性にあふれた強い個人」の教育とは対照的だ。

【第2章 ここが変だよ 赤信号をみんなで渡る日本の管理職 より引用】

*-みんなが後出しジャンケンをする組織

 モラルの問題だけでなく、個人、自己が弱いと困ることがたくさんあります。たとえば、そういう人たちには“群れたがる”傾向があることもその一つです。
 どういうことかと言うと、お互いに傷つけ合わない者同士でないと安心できないために、同じような感覚の人で集まりたがるのです。
 つまり、「オレはお前の悪口は言わない。その代わりお前もオレの悪口を言うなよ」と暗黙のうちに目で語り合う。そして、「オレたちの悪口を言うヤツは、仲間には入れるな」とも。

【引用終わり】

後出しジャンケンとまで言わなくても、「お前の責任だ」と言われないために、何の意見も言わずに黙っている者が技術者にも管理職のもいる。

【第5章 まだまだ変だよ 不合理がいっぱいの日本の会社の人事評価 より引用】

*-成功した旗の舌には百人が集まる

 「成功した旗の下には百人が集まる。敗れた戦場には一人も残らない」-ちょうっとうろ覚えで恐縮ですが、ある実力派の社長さんから伺った言葉です。
 人間心理からすれば当然の働きかもしれませんが、日本の会社ではとくに目立つパターンだと感じるのは私だけでしょうか。
 集団主義にどっぷり浸かり、組織から排除されないように、後出しジャンケンでしか意思表明しない人が多いと、当然そんな現象が顕著に表れます。
 たとえば、新しいプロジェクトに挑戦しようという時には、どこの会社でも、何回もブレーンストーミングや会議を重ねることになるでしょう。そんな際に、出席者の多くが必ず口にする言葉があります。
 「よいアイディアだとは思うんだ・・・」というのと、「大丈夫かい。リスクはないの・・・」です。この二つの意味を含んだ内容の発言が、折りに触れていろんな人の口から発せられます。
 大丈夫かどうかなんてわかったら、誰も心配しません。進めながら大丈夫なように処理していくのですし、リスクのないような仕事を誰がよろこんでするのでしょう。
 でも、そのひと言が“保険”のようなもので、後々それが効いてくるのです。
 つまり、たまたまプロジェクトが成功したとします。すると、「ほら、オレが言ったとおりだろ。成功するアイデアだと思ったんだ」とみんなが口にします。なかには、「ほら、オレが言ったように、リスクに気をつけたから上手くいったんだ」なんて言う人もいます。
 一方、不幸にしてよい結果につながらない場合には、「ほら、だからオレがリスクがあるから危ないって言っただろ」となるのです。
 これも全部、後出しジャンケンです。
 要は結果がすべてで、どんなふうにプロジェクトが進行したかなんて、誰も関心がないんです。これでは成功のノウハウが蓄積されるなどということは、絶対にありません。

【引用終わり】

宋さんの言うように、失敗を恐れていたり、失敗したプロジェクトを振り返って、プロセスを見直すことから逃げることしか考えない管理職は多いように思う。これは「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」の悪い側面に他ならない。「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」は、うまくベクトルが一つになって、それぞれが犠牲をいとわず目標を達成する気持ちになったときは強いが、プロジェクトが成功しそうになく、一人一人が保身を考えるようになるととたんに弱くなる。

【第6章 こうしていこうよ 新しい日本の会社 より引用】

*-顧客価値を決めるのは管理職

 このように、日本の会社にとどまらず日本の社会にも好影響を与えることが期待できるプロセスマネジメントですが、その中核となる「顧客価値の決定」というのは、非常に重要な仕事だということがわかっていただけると思います。
 この重要な仕事を担うのが、基本的には経営者と管理職ということになります。
 顧客価値を決めるには、徹底的にお客さんを知る力が必要です。それが身についておらずに、間違ったプロセスを設計してしまうと、その影響は計り知れません。大変なことになります。
 今までも、経営者や管理職の多くは、自分たちがやっていることはみんなお客さんのためだと思い込んでいます。実はこれが独善で、顧客価値など考えていないことが多いのです。
 「徹底的にお客さんのことを知る力を身につける」というのも、口で言うのは簡単ですが、そんなにたやすいことではありません。
 これは、理屈ではないと思います。どういうことかというと、個人の自立なんです。
 この本では、日本の会社やそこで働く人たちの現実を見て、変なことだらけだと言い続けてきました。欧米の人も中国の人も日本の人も、みんな少しずつ見た目は違っているだけで同じ人間なのですが、日本の人を見ていると実はかなり違和感を感じる部分があるのです。その一番の原因はそれぞれが自立できていないということだと思います。
 サラリーマンになって、一生同じ会社しか経験しないのが当たり前。その会社を辞めたらもうやっていけないと思い込んでいるとか、日本の管理職の人たちの価値観はとても単純です。
 それというのも、学校を卒業して大きな会社に入ったら、かなりの額の給料が約束されます。そうなると、その会社から離れることを考えないようになりますし、お酒を飲むのも全部会社の仲間、先輩、後輩。言ってみれば、一つの会社しか経験しないために、その会社で通じる理屈しか知りません。
 そんな人間に、徹底的にお客さんのことを知らなければならないと言っても、ムリな話なんです。これは、極論ですが、狼と一緒に育った子は、いくら頑張ったって人間のことがわからないのです。
 人間としていろいろな価値観があることを知った上で、消費者の視点をちゃんと持った人間との交流を持たなければいけません。
 そのためには、やっぱり経験を積むしかありません。自分自身がきちんと自立した消費者になることです。

【引用終わり】

自立していない者ほど「こんな会社辞めてやる」と言いながら絶対に辞めずに何とかしてすがりつこうとする。

【第7章 プロセスマネジメント 導入・実践のために より引用】

*-意識改革は「気づき」から

 これまでの日本企業は、精神主義と結果主義を根幹に据えたマネジメントを行ってきたと、私は見ています。この二つのがんじがらめになった日本企業のマネジメントをガラリと意識改革するのが、私自身の仕事でもあり、私の会社の主要業務となっています。意識改革をもたらすために、私たちが実際に行っている手法についてお話ししましょう。
 まず、部長と支店長クラスを集めて、私が社内講演会を一回やります。講演のテーマは「どうしたらマネージャはラクになれるか」です。
 日本のみなさんは、ラクになることに罪悪感があって、「どうしたら頑張れるか」しか語ろうとしませんが、私は「どうしたらラクになれるか」という話しかしません。
 ここが重要です。従来の意識改革の手法は、「もっと頑張れ」でした。私は逆です。「頑張らないでください。それでもあたなの方にメリットのある仕組みがあります。それをやりませんか」とお話しするのです。つまり、仕事をラクにするために発想を変えることを提案し、結果主義からプロセスマネジメントへの転換を促すわけです。
 同じ頑張りならば、もっとインセンティブや給料を増やすような方法、給料を増やせないのなら早く家に帰ってラクになる方法を考えたほうがいいに決まっています。
 こうしたことについて具体論で話し合うと、「そういえばそうだね」「やってみようか」となります。
 「気づき」です。自分で気づき、自分で変えようと思わせることが、意識改革のポイントなのです。

【引用終わり】

宋さんがこの本で一貫して主張しているのが効率のよいマネジメントをしましょうということだと思う。これまで日本の技術者は技術のことだけ考えていればよかったのだか、開発するソフトウェアの規模が増大し、プロジェクトメンバーの数も増えてくると、技術のことだけでなくマネジメントのことを考えないとプロジェクトが成功しない世界に入ってきた。

宋さんは日本は工場のプロセスマネジメントは世界一なのに、ホワイトカラーの効率性が非常に低いと指摘している。この非効率なマネジメントの手法が、ソフトウェアプロジェクトのマネジメントにも影響を及ぼしている。

ただ、この状況に気付いたとしても、プロジェクトメンバーの意識改革を行うのはそう簡単ではない。宋さんのようにトップの地位にいたなら、いろいろな指示が可能だが、絶対的な権限を持たない状況でプロジェクトの意識改革を行うには、それ相当のエネルギーがいる。

自分は、そのエネルギー源は「顧客満足を高めるために必要である」という意識だと思う。「顧客満足を高めるため」というコンセプトの対して反対する経営者はいないし、エンジニアにしても「顧客満足を高めること」に後ろ向きなことを言うのはイヤだからである。

今の日本の組織で一番恐いのは外から見ると「ここが変」というところが、組織の中にどっぷり浸かっていると「お前の言っていることの方が変だ」と思ってしまうことだと思う。

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