2017-07-26

医機連から公開されたIEC 62304適用に関する質疑応答集(Q&A)

医機連(一般社団法人日本医療機器産業連合会)が2017年5月17日に厚労省から発出された『医療機器審査管理課長通知:医療機器の基本要件基準第12条第2項の適用について』の運用に関する留意点について,質疑応答集(Q&A)を公開した。

ようするに,IEC 62304(JIS T 2304)への適用に関する通知が5月17日に厚労省から出たが,その通知だけではよく分からない点があるので,業界の総意として質疑応答集(Q&A)を公開したということである。

医療機器審査管理課長通知:医療機器の基本要件基準第12条第2項の適用について』では,2017年11月25日から適用される医療機器の基本要件基準(平成17 年厚生労働省告示第122 号)の第12 条第2項の規定(プログラムを用いた医療機器に対する配慮)に適合するためには,基本的に JIS T 2304(IEC 62304)に適合することや,薬事申請時に JIS T 2304 への適合性を説明する資料の記載事例などが説明されている。

医機連から公開された 質疑応答集(Q&A)は,この厚労省通知だけでは,実運用上不明な点をクリアにするために作成された。

医機連(一般社団法人日本医療機器産業連合会)は保健・医療用の用具、機器、器材、用品等の開発、生産、流通に携わる事業者団体の参加のもと、1984(昭和59)年2月に設立された,医療機器系の業界団体の元締めである。

今回発行された質疑応答集(Q&A)は,医機連の法制委員会配下の医療機器プログラム対応WGで策定したものだ。

機能安全規格である IEC 61508 や IEC 26262 と IEC 62304(医療機器ソフトウェアーソフトウェアライフサイクルプロセス) の違いは,IEC 62304 は各国の医療機器規制に付随する基準の適合確認のために使用される点である。

そのため,企業から見れば,その規格に適合(当該規格への適合が絶対条件ではないが・・・)していないと商品を売れなくなるかもしれないため,規格の運用についても詳細なルールが必要だ。

2017年5月17日に発出された厚労省通知だけでは,その詳細な運用ルールが分からないところがあるので,通知の行間を埋める質疑応答集(Q&A)が必要となる。

例えば,IEC 62304(JIS T 2304)は IEC版では2006年版と2012年版があり,JIS では 2014年版と2017年版がある。初版と追補版の二種類が存在する。医療機器の基本要件基準第12条第2項では,「最新の技術に基づいたライフサイクルプロセス」への適用を求めているため,新しい方の規格の方に適合する必要がありそうだが,旧規格からの移行期間はあるはずだ。前述の厚労省通知には規格の版については何も書いていない。しかし,初版の移行期限はいつかがはっきりしないと運用ができない。

そこで,今回,質疑応答集(Q&A)で,移行期限は 2022 年 2 月 28 日までの移行を推奨とするという見解が示された。

また,本ブログでも取り上げた『汎用ソフトウェア製品(製品開発プロセス)は IEC 62304(JIS T 2304) に適合できない』についても,医機連の見解が下記のように示された。
Q02:医療機器に搭載する OTS(off-the-shelf、市販されている既製の)ソフトウェアについても、第 12 条第 2 項への適合を示す必要がありますか。
A02:基本要件基準第 12 条第 2 項は、プログラムを用いた医療機器に対する要求事項を規定したものであり OTS 等を含むプログラム全体として JIS T 2304 への適合を示すことが求められます。なお、医療機器を構成する個々のプログラムの構成要素(製造販売業者の開発品や OTS など)を個別に適合を確認することは求めていません。
これにより,医療機器が搭載するOTS(off-the-shelf、市販されている既製の)ソフトウェアに対して IEC 62304 の個別の適合は求めていないことがはっきりした。

なぜ,OTS(off-the-shelf、市販されている既製の)ソフトウェアが単独で IEC 62304 に適合することが規格の趣旨を逸脱している(規格が本質的に何を目指しているのかを理解していない)のかについては,『汎用ソフトウェア製品(製品開発プロセス)は IEC 62304(JIS T 2304) に適合できない』を読んでいただきたい。

IEC 61508 や IEC 26262 は各国の法規制の要件にはなっていないと思う。そのせいかもしれないが,これらの機能安全規格は OTSの開発プロセスに対する規格の適合を推奨している。

規格が規制に使われる場合,できているかいないかが,法に適合しているかどうかの判断材料になることがある。よって,規格の適合が努力目標では済まない場合もあるし,製造業者の法的な責務となるケースがある。

IEC 62304 の場合,医療機器製造販売業者に対する責務という側面があり,OTSソフトウェア供給者はその責務を直接負うことができないため,OTSソフトウェアの単独認証が意味がないという面もある。業界の構造やサプライチェーンのしくみが根本的に違うから,そういった相違が生まれるのかもしれない。

ちなみに,医薬品,食品,医療機器,化粧品などの分野でレギュレトリーサイエンスという分野の科学が検討されつつある。(レギュレトリーサイエンス学会のサイト

レギュレトリーサイエンスとは
レギュラトリーサイエンスとは我々の身の回りの物質や現象について、その成因や機構、量的と質的な実態、および有効性や有害性の影響をより的確に知るための方法を編み出し、その成果を用いてそれぞれの有効性と安全性を予測・評価し、行政を通じて国民の健康に資する科学です。
言わば規制の有効性や規制がもたらす安全性を科学しようという取り組みだ。医療や食品だけに有効な科学ではないだろうから,他の業界にも広がっていくのかもしれない。

いずれにせよ,医療機器ドメインでは医機連から質疑応答集(Q&A)が発行されたことで,今後は IEC 62304 への適合を単独で示すOTSソフトウェアは出てこないだろうと思う。

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