厚生労働相の諮問機関、労働政策審議会の分科会がいわゆる残業代ゼロ」の提言を出した。
労働基準法では1日の労働時間を原則8時間として、残業や休日・深夜の労働には企業が割増賃金を払うことを義務づけている。一方、企業には人件費を抑えたり、もっと効率的な働かせ方を取り入れたりしたいという要求がある。
いまは部長級などの上級管理職や研究者などの一部専門職に限って、企業が労働時間にかかわらず賃金を一定にして残業代を払わないことが認められている。今回の提言では、この「残業代ゼロ」の対象を広げるよう求める。
今回は、この提言自体ではなく、ニュース番組で取り上げられる「残業代ゼロ」についてのちまたの賛成意見について考えてみたい。
「残業代ゼロ」の賛成意見の中には「ダラダラと仕事をしているのに残業代で稼いでいるのはおかしい」や「時間内に仕事を終わらせているのに評価が低いのは納得がいかない」といった組織の評価に対する不満からくる意見がある。
これらの意見を聞くと、果たして仕事の成果は客観的に評価できるだろうか、トータルで考えれば労働時間の方が客観的な評価指標として優れていないか、と思う。
というのも、ダラダラ仕事しているのを社員を放置しているのは、組織マネジメントの問題であり、マネージャにも責任があるのではないかと思うし、ダラダラかそうでないかの判断は極めて主観的であり、評価する人の感覚にもよると思うからだ。
仕事の効率や成果を評価するのはとても難しい。営業職ならば、売上高が分かりやすい指標だ。でも営業だって売り上げが上がれば言い訳ではない。お客さんをだまして商品を売りつけ一時的に売り上げを上げても長続きはしない。顧客は長いつきあいならアフターフォローがしっかりしている信頼できる営業マンから買いたいと思うだろう。
だいたい、仕事の効率がいいというのは何と比べているのだろうか。同じ仕事を自分がやればもっと早くこなせると考えるのだろうが、その人の仕事ぶりを別な人が評価したら、ちょっと違った感覚を持つかもしれない。自分はたばこを吸わないので仕事中にたばこを吸いに行く人を見ると、その時間がもったいないように思うことがあるが、彼らもたばこを吸いながらいろいろなことを考えているらしいし、少しインターバルを置いた方が仕事の効率が上がることもあるかもしれない。朝から晩まで、こんを詰めて働けば効率がいいとは限らない。
人事担当だって、仕事の効率がいい人材ばかりを採用できればそれに超したことはないだろう。人間、一人一人個性が違うので、採用する方もたいへんだ。毎年、技術系の新人教育をしていて、そのばらつきを毎回感じる。
プロジェクトはチームで目的を達成する。個々人は得意不得意があるから、プロジェクトリーダーはプロジェクトのパフォーマンスが最大になるようにマネジメントしなければいけない。プログラミングが優秀な人でも、他部門との交渉は苦手かもしれない。そういう人に外部折衝を任せて、成果が上がらないと低い評価をするのは得策ではない。
残業をしないと評価されないという意見も聞くことがある。プロジェクトリーダーの立場に立ったとき、プロジェクトに対して厳しい日程や突発的に発生した不具合に急遽対応しなければいけないことはよくある。そういったプロジェクトのピンチのときに、率先して対処してくれるメンバーがいるとありがたい。多くのメンバーは特に指示をしなくてもその期限を間に合わせようとしてくれる。結果、それが残業につながってしまうことはよくある。
「残業をしないと評価されない」は「プロジェクトがピンチにときに率先して動いてくれると助かる」の裏返しではないだろうか。
残業時間を考慮せずに成果で仕事を評価するのはそう簡単ではないと思う。もしも、本気で自分の実力を評価して欲しいのなら、満足できる評価をくれる会社を渡り歩く覚悟を決めるか、それとも独立するかないだろう。
独立すれば、お客さんが直接自分の仕事を評価してくれる。でも、そのときに、会社組織がいろいろなものを背負っていることが分かるのかもしれない。(独立したことはないので想像)
「ダラダラと仕事をしているのに残業代で稼いでいるのはおかしい」や「時間内に仕事を終わらせているのに評価が低いのは納得がいかない」といった意見を持つ部下の査定をするマネージャの立場になると、査定の苦しみが分かる。いっそ、労働時間という客観的な指標で評価できるとどんなに楽だろうかと思ったりするに違いない。
やはり、もとが生身の人間だとその仕事ぶりや成果を客観的に評価するのは難しいのだ。だから、誰が評価したって公平にはならないし、評価される方は不満が残る。でも、給料はお金というしごく客観的な指標で現れるので、他人と明確に比べられちゃうところが問題だ。となるとマネージャは給料とは別にプロジェクトメンバーを褒めたり、愚痴を聞いてあげることで評価のギャップを埋めるしかないのだと思う。
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