3月8日の金曜スーパープライム「池上彰くんに教えたい10のニュース」のラストで3月一杯でTVの仕事から離れる池上彰氏が、「自分が生きている間にベルリンの壁が崩れるなどとは思っていなかった。チュニジアのデモからエジプトのムバラク大統領の退陣までこんなに早いとは思わなかった。時代の変化は早くなっている。今流れているニュースはいずれ歴史になる。そういう目でニュースを見なさい。」と言って去って行った。
3月8日は東日本大震災が起こる前だったから、想像もできなかっただろうが、まさに日本で流れているニュースは今後、歴史に刻まれることになる。
そう考えると、今、乗り越えなければならない問題の解決のプロセスは現在だけのことだけではなく、未来から見た歴史になるという意識で対峙しなければいけない。
品質マネージメントの観点から考えたときに、問題が起こったときに重要なのは、同じような問題が起こらないように予防と是正を行うことだ。
品質をマネージメントする技術者はCAPA (Corrective Action and Preventive Action:是正・予防措置)に注力を注がないといけない。問題が起きたときに犯人を見つけて責任を追及することは容易だが、再発防止の取り組みを築き上げるためには技術もいるし、組織的なマネージメントもいる。
再発防止を実現するためには、何よりもまして、同じ問題を起こしたくないという強い意志がエンジニアやマネージャになければいけない。
日々のビジネスシーンでは、QCD(Quality, Cost, Delivery)のうち、コストや納期が品質よりも優先される、優先しろという指示、圧力がかかることが少なくない。真の技術者は製品やサービスにおいて当たり前にできていることの技術、その品質を維持することの難しさをよく知っている。一方、製品やサービスを表面からしか見ていない者は当たり前にできていること=潜在的な価値の重要性を常に意識することができない。
潜在的価値が意識されるのは、当たり前品質が当たり前でなくなったときだけだ。すなわち当たり前できているはずのことが、できなくなり故障、障害、事故が起きたときに当たり前品質の重要性と、その潜在的価値を支えている技術が十分出なかったことが分かる。
このときに、組織や社会が認識しなければいけないのは、当たり前にできていることの裏にある技術や、どんなリスクを想定し、どんなリスクコントロールをしているのか、していなかったのかというリスク分析である。そして、品質マネージメントのプロセスに従い、CAPA (Corrective Action and Preventive Action:是正・予防措置)を実施する。そのとき、技術者やマネージャは同じ故障、障害、事故を起こさないという強い意志を持たなければいけない。
エンジニアは事態の収拾でホッとするのではなく、再発防止の取り組みに力を注ぎ、組織はQCD(Quality, Cost, Delivery)の Quality を軽視しない、コストや納期を優先させて品質への意識を忘れてはいけないことを心に誓う必要がある。
実際には、Quality, Cost, Delivery の間にはトレードオフの関係があることが多い。納期やコストを優先させると品質が低下する可能性は高い。しかし、技術力によって QCDのバランスを確保することは可能だ。
例えば、商品群のコアとなるソフトウェア資産を抽出し再利用可能な管理ができれば、品質とコストと納期の要求を満たすことはできる。ソフトウェアプロダクトラインの技術だ。このとき、医療機器などのクリティカルデバイスにおいては、機器を取り巻くリスクに対して、そのリスクを受容可能なレベルまで引き下げるリスコントロール手段(設計上の対策)がコア資産に含まれいるとなお、その資産価値は高まる。(コア資産の顕在的価値と潜在的価値の両方を含めることができるとなお良い)
そのソフトウェア資産の安全性や信頼性を高めることに注力を注ぎ、その後何世代にも渡ってコア資産を再利用することができれば、QCD の要求を同時に満たすことができる。
クリティカルデバイスの開発は、失敗や事故との闘いであるとも言える。失敗や事故を再発されないためのノウハウを製品につぎ込み続けることが当たり前品質を高めることにつながる。だから、新規参入が難しいとも言える。ただし、大規模複雑化したソフトウェアの場合、単純に安全装置としてのソフトウェアを追加し続けると、これまで正常に動いていたシステムをデグレードさせてしまうこともあるから注意が必要だ。
ハザードやリスクがどう変化したのか、見落としていたのかを再評価し、リスクコントロール手段を要求としてとらえ、実現するアーキテクチャを設計する。日本人はこの設計上流の分析や設計がとても苦手に見える。試行錯誤で付け足しや修正をするのは得意だが、上流に立ち戻って再設計するのは下手だ。
障害や事故を再発されないという強い気持ちとリスク分析、リスクコントロールのアーキテクチャ設計ができないとないと、障害や事故はまた起こる。気持ちだけでもダメだし、技術力がなくてもダメだ。
そして、是正・予防措置は、気持ちだけでは進まない、組織に品質マネージメントを仕組みを根付かせ、日々前向きな気持ちで回していなければできるものではない。
そして、ジャーナリズムにお願いしたいのは、障害や事故が起きたとき、その後組織が再発防止の取り組みを続けているかどうかを監視することと、今は起こっていないが何かあったら大変なことになる社会インフラ、重要デバイスに問題が起こったらどうなるのかという視点を持ってもらうことだ。
何か起こってから追求するのは誰でもできるが、これから起こるかもしれない障害、事故を防ぐためには経験や知識、幅広い視点が必要になる。ジャーナリズムには事故を未然に防ぐ技術やマネージメントについての報道を期待したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿