2010-12-26

NHKの「就職難をぶっとばせ!」を見て

2010年12月25日クリスマスの日にNHKで『日本の、これから「就職難をぶっとばせ!」』という2時間の討論番組がオンエアーされた。

もちろん、超氷河期と言われる就職活動がテーマなのだが番組を見終わって、これは学生の就職という限れれた範囲の問題ではなく、日本の社会全体の問題だと思った。学校で何を教えるのか、企業はどのように人材を採用し、そして社会はどのように人材を流動させる必要があるのかといった社会構造の変革時期に来ているということがよく分かった。

番組は三宅民夫アナウンサーが進行役で進み、就活中の学生(内定あり、就職のための留年を決めた人、既卒者など)や、経営者、人事担当、高校の先生、就職した先輩などが集まっていた。

ゲストは、下記のような方々で、勝間さん、海老原さん、宮本教授がそれぞれの持論を披露し、それについてディスカッションをした。

文部科学副大臣…鈴木寛,株式会社クラレ代表取締役会長…和久井康明,東京大学大学院教授…ロバート・キャンベル,経済評論家…勝間和代,株式会社ニッチモ代表取締役…海老原嗣生,放送大学教授…宮本みち子

勝間さんは次の2点を主張していた。

1. 日本の企業は新卒一括採用をやめて、アメリカのように不定期にエントリーレベルから採用したり、インターンシップによる採用をすべきだ。
2. 企業が社員を解雇しやすくする(=もっと人材を流動しやすくする)ように、セーフティネットを準備し、解雇された後の職業訓練や雇用手当を充実させる。

議論の中で重要だと思ったのは、日本の企業が新卒一括採用をする際のメリットについてである。企業側は新卒一括採用によって、新入社員研修をまとめて実施することができ、かつ、「同期」の意識を高めることで、同期同士での助け合い、競争、情報の共有といういろいろなメリットが生まれるということだった。ようするに企業は新卒一括採用によって新入社員教育のコストを抑えることができるということだった。

しかし、考えてみればアメリカのエントリーレベルのプログラマなどは年収200万円くらいだと聞く。そんな低賃金で雇えるのならば、不定期に個別トレーニングを受けさせてもコストアップにはならないだろう。

問題は、日本式で何十年もやってきた日本の企業がアメリカ式の雇用スタイルには簡単には変われないということだろう。司会の三宅さんは、番組の最後の方で「我々団塊の世代は、小中高大と学校を通り過ぎ、企業に就職して定年まで勤め上げるという、レールに長い間乗ってきた。今、このレールを降りなければいけない時代に来ているようだが、果たして降りられるだろうか。」と言っていた。

まさにそのとおり。日本人が高度成長期にやってきてうまくいっていたシステムを変えるためには、危機感がなければ変わるわけがない。右にならえでやってきて大きく失敗しないでここまでこれたのになんでシステムを変える必要があるのだと思っている経営者や人事担当は山のようにいるはずだ。

でも、いろいろな方面で日本が世界の一番でなくなってきた今、ひとと同じことをやっていてはグローバルな競争には勝てない。韓国や中国やインドの企業に負けて、仕事がなくなって今のポジションを守ろうと考える社員が多くなり、会社が潰れたり、合併されたりしてから問題に気がつく。

どうも、これまでの日本では周り同業他社を見渡しながら同じようなことをコツコツをやっていれば、なんだかんだいって売り上げは上がっていったらしいのだ。国全体が成長期にあったから、そうだったのだが今は違う。今は、日本の中でそんなことをやっていても、同業のアジアの会社には勝てないし、変化のスピードが早いので海外他社の成功を見てから真似しても間に合わない。その状況に日本人の多くが気づいていない。別な番組で、日本にいると SAMSUNG の驚異はあまり感じないが、東南アジアや中東、南米などに行くと明らかにSAMSUNGの台頭に驚くという。日本の平和ぼけは経済においてもボケのようだ。

新卒一括採用という制度は護送船団のように見える。人事部門は他の会社がやっていることを真似していれば大きな失敗もなく、経営者から怒鳴られることもない、学歴で学生を選ぶからひどい人材を採用する危険性も低いが、飛び抜けてユニークな大きな組織貢献をする可能性のある人材の採用もできない。そこから脱することもできるはずなのにみんなが周りを見渡して顔色を伺っているから、だれも動かない。

もう一つ、人材コンサルタントの海老原さんは、学生や親は大企業ばかりに目を向けないで、世界でも有数の技術を持つ中小企業などを探しなさいと主張していた。中小企業が学内でちょっとした飲み会のスポンサーになって、学生と直接話しをする機会を設けたらどうかという話しもしていた。マスコミを通すと中小企業の良さが伝わらないから、直接話しをする機会をできるだけ多く作ろうとう提案だ。

実際、今の学生は大手指向が強く、自ら狭き門に殺到している。従業員数1000人以下、300人以下という企業なら求人倍率は1倍を遙かに上回っている。

日本だけでなく、世界でのシェアも高い卵の選別をする機械を作る会社などは、せっかく採用したのに親に「そんな会社は聞いたことがないのでやめておきなさい」と言われ、内定を辞退する学生が少なからずいるらしい。だから、今では親子に対して会社の説明をする説明会をやるのだとか。

この問題提起に対するディスカッションで、大企業は安定しているし、何はともあれ就活サイトでは大企業の情報しか載っていないという話しがあった。優良な中小企業の情報自体が得られないというのだ。

コメンテーターから毎日新聞各紙を読んでいれば、中小企業の情報も入手できるという指摘があった。自分もそう思う。新聞だけではない、インターネットや業界のニュースサイトからだって情報は得られる。興味のある業界が特定されているのなら、業界新聞やその職種のひとが書いているブログを読むことだってできる。

今なら、PCの前に座って各方面の情報を探ればいくらでも情報は得られるのに、やっていないだけなのではないだろうか。誰かに情報の検索方法を教えてもらっていないから、他の学生はそんなことやっていないからしないのだろうか。

就活サイトという与えられた枠の中だけでしか情報を探していないのではないだろうか。これも右にならえ症候群の影響だろうか。

討論会の中で、就活学生はリスクについて考えた方がよいという話しがあった。大企業に就職した入社二年目の社会人の方がいて、同期が500人もいると自分がやりたい職種があっても希望どうりになる可能性は低い、大企業では会社に入ってからも競争が続くと言っていた。それが大企業のリスクだ。中小企業なら、社長と直接話しをする機会も多く、自分がやりたいことを主張すればその心意気を汲んでやらせてくれる可能性もある。英会話の能力を活かしたいと言えば、海外シェアの高い優良中小企業なら即海外営業担当になれるかもしれない。そこで自信がないと言うようではチャンスは巡ってこない。ただし、給料は安いかもしれないし、もしかしたらブラック企業かもしれない。それが中小企業のリスクだ。

どっちのリスクを取るのかだ。もしも、今自分が就活する学生なら、絶対に大企業のリスクは選択しない。ブラックでない将来性の高い中小企業を探して就職し、やりたいことを思いっきりやって、スキルが徹底的に伸ばし、もしも、その会社の器をはみ出しそうになるくらい成長したら、その実績を引っさげて別の会社に転職する。

討論会の中で悲痛の叫びを口にする学生さん達を見ていて思うのは、彼らは完全に「就職できないかも知れない」という恐怖におびえているということだ。そして、その恐怖を振り払うための方策として、受験勉強で使った方法を使おうとしている。

つまり、中学二年の間に中学三年生までの教科を終わらせて、中学三年生の期間は受験対策をする。大学1,2年から就職活動を開始し、4年生になったら面接のための塾に通ったりする。ようするに高校、大学の難関校を受けるときの戦略そのままだ。

企業には偏差値は付いていないから、よくコマーシャルや全国ニュースに出てくる大企業がいい会社だと考える。

この戦略の大きな間違いは、皆が同じ土俵で闘おうとしている点だと思う。共通テストや私立大学の入学試験は公正を期すために、できるだけ同じ土俵で学生達を闘わせようとしているが、企業は別に同じ土俵で闘う必要はないし、同じでないからこそ生き残れる世界もたくさんある。それなのに自ら競争相手の多い土俵に登りたがる心理が自分には理解できない。

一つは他の人が着目していないような優良な土俵を探すこと、つぎにその土俵で自分が勝つためには何をしなければいけないのかを考えることだ。どちらもひとと同じことをしていたらダメで、ひとがしていないことで自分のやりたいこととのオーバーラップを探す必要がある。日本ではそういう訓練はしてこなかったのだろう。

一昔前は大学への進学率は10~20%。今では50%を越えている。昔は、大学は学問を学びたい者が行っていたのだが、今では大学は限られた若者がいくところではなくなっており、彼らを全部就職させるためには職業訓練的なこともしなければいけないというVTRがあった。

これに対して、大学がアカデミズムの立場を崩すのはよくないという意見があったが、東京大学大学院教授 ロバート・キャンベル氏が、どんな分野であれ、学び、議論し、改善を模索するという行為を大学で学び取ることができればムダではないと言っていた。自分はロバート・キャンベルさんの言うことが好きだ。50%が大学へ進学する時代なら、アカデミズムもあり、職業訓練もありにしなければ結局は不幸な学生がでてくる。

大学では何でもいいから勉強する対象を通して、深く掘り下げて考え、分析したり、理論を打ち立てたり、問題を解決する力を養って欲しい。

そして、変えなければいけないのは学生と親が持つ価値感だ。働くことの意味はなんだ? みんなが知っている安定した企業に就職することか?

20世紀の時代には大企業=安定の式はなりたったかもしれないが、21世紀ではまったく信用できないし、大企業のリスクも存在する。

「みんなと同じ」=「安心」「仲間はずれにならない」

という価値感はそろそろ捨てよう。親は子供に「友達と同じことをするな」「自分だけのオリジナリティを磨け」と言おう。みんなが黒のスーツを着ていたら、自分だけはグレーにしてみなさい。「なぜ、君はグレーのスーツなのか?」と聞かれたらラッキーじゃないか。

ひとと違うことを突き詰めるのは「自分にはムリ」と言うのならば、職業訓練をしよう。学生のうちに、企業が興味を持つ分野のエキスパートになってしまおう。それが自分の好きなことと一致していればそれに越したことはないが、絶対にイヤだというわけではないのなら、何かの道を選んで一流と言われるまでスキルを高めてみたらいい。

『日本の、これから「就職難をぶっとばせ!」』を全部見て一番バカだと思ったのは、世界のトップシェアの中小企業に内定をもらっていながら入社を辞退した学生とその親だ。

本当にその親の顔を見てみたいし、「聞いたことがない会社だから」という理由で断った学生も親も親なら子も子なのだろう。

番組キャスターの三宅さんも言っていたがこの問題は就活学生だけの問題ではない、今一度我々は自分自身に「何のために働いているのか」という疑問を問い掛けてみる必要がある。

そして、その答えと今の社会のシステムにズレがあるのなら、未来の日本をしょって立つ若い人たちのために変える行動をしなければいけない。批判したり、評論したりするだけではだめだ。何かしらの行動をしなければいけない。

行動できなければ、それはひかれたレールから降りられないということだからだ。だれもレールから降りないのなら、さびれたレールは残り続け乗客はいなくなり廃線になるだけだ。

さしあたり、自分ができるのは学生向けにこのブログを通して情報を発信して「みんなと同じ」症候群から脱出する方法を授けることかな。

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