2008-10-18

USとJapanの文化の違いと商品品質との関係

先日、日科技連主催の第15回 品質機能展開シンポジウムに参加してきた。

品質機能展開(Quality Function Deployment)は日本初の顧客の声を製品やサービスの開発につなげるための手法で、 新製品開発の現場など、多くの「ものづくり」の現場で国内・海外問わずに活用されている。シンポジウムでは QFD の生みの親である赤尾洋二先生も出席されていた。

シンポジウムの特別講演で GD3 コンサルティング代表/JMAC GD3 センター長 の吉村達彦氏の話を聞くことができた。(吉村氏の本:トヨタ式未然防止手法GD3―いかに問題を未然に防ぐか


吉村氏はトヨタ自動車に約30年務め、その後九州大学教授を経て、GM(General Motors)の Exective Director Reliability & Durability Strategy の仕事をし、GD3コンサルティング代表に至る。

そして、GMに3年間いてそのときに感じた日本とアメリカの文化の違いを表したのが冒頭の図である。

この図はこれまで自分が抱いていた日本人とアメリカ人の違いを端的に表していたのでここに掲載させてもらった。

この図が意味するところは、アメリカ人(吉村さんの経験ではGMのこと)はルールと責任はしっかりしており、システムやツールを構築することには長けているが、品質を心配する意識が小さい。一方、日本人(吉村さんの経験ではトヨタのこと)は、品質を心配する意識はとても大きいが、ルールや責任を重要視する姿勢は小さく、システムやツールの構築もアメリカほどは進んでいない。

どちらもバランスがいいとは言えないという話だった。

特に、アメリカのカルチャーの問題点として次のことを指摘されていた。

【アメリカのカルチャーの問題点】
  1. 明確に責任や役割を定義すると・・・品質は他の人の仕事だと思ってしまう。
  2. すばらしい支援システムを作ると・・・現地に行って現物を見て考えたり、心配したりする必要はないと思ってしまう。
したがって、品質を心配する意識をもっと大きくしなければいけない。製造業はエンジニアとテクニシャンの創造的技術・技能を製品に付加して利益を得ている業種であり、創造的技術とは問題を発見してそれを製品の価値に変換する能力である。発見するということはシステムやツールでできるものではなく、人間の行為であり、製品に価値を付ける上で意識がもっても大切であると説明されていた。

システムやツールで問題点を発見しやすくすることはできるけれども、そこには気づきが必要であり、気づくためには品質を心配する意識が必要であるということだ。

また、吉村氏は50%の品質を90%に上げること、すなわちだめな品質を良くすることと、90%の品質を99%にすること、すなわち良い品質をもっと良くすることは違うと言っている。

50%の品質とは問題は見えているが、積極的に解決をしていないし、再発防止もしていない状態で、これを解決する過程は知識も知恵もつくし、おもしろい。

また、責任体制やシステムを強化すれば、問題を積極的に解決するようになり、再発防止の体制もでき90%のレベルにはなるが、90%の品質を99%に引き上げるには品質を心配する意識が必要だというのだ。

実際、GMが作る自動車の品質レベルはクレームの件数で言えば日本車と変わらないレベルまで来ているという。しかしながら、顧客の信頼や安心の意識はまだ日本車のレベルに達しておらず、顧客はわずかか品質の差やデータ以外の事実や評判(イメージ)に反応するのだそうだ。

ようするに品質でお客様の信頼を獲得するためには、そこそこの品質(90%の品質)ではダメであり、99%の品質を目指さなければいけない。

吉村氏の話を組込みソフトウェアの世界に展開して現状を分析すると、次のようになる。
  • 日本の組込みソフトエンジニアは品質を心配する意識を武器にして製品のソフトウェアの信頼性を高めていた。
  • このときルールや責任は曖昧なまま。(「あたたかい人間関係の中のやさしい一員」という日本人の特長を活かしている)
  • システムやツールもアメリカほど発達していない。
  • 「品質を心配する意識」を糧にして、繰り返し修正を行いソフトウェアの品質を高めてきた。
  • ところが、ソフトウェアの規模が拡大してくると、このやり方では品質を保てなくなってきた。
  • 何が悪いのか見当がつかないので、欧米のやり方を見習おうということになる。
  • アメリカと日本を比較すると「ルールや責任」「システムやツール」が弱いことに気づく。
  • そこでアメリカ式のルールやプロセス、システムやツールを導入する。
  • そのうち、アメリカで起こっている問題「明確に責任や役割と定義すると、品質は他の人の仕事だと思ってしまう」や「すばらしい支援システムを作ると現地に行って現物を見て考えたり、心配したりする必要はないと思ってしまう」という悪いところまで導入されてしまう。
  • 結果的に、品質を心配する意識が縮小し、日本や日本人の特長が薄れ99%の品質を確保できなくなる。
こんな状態に陥っている組織はないだろうか。問題を可視化することは絶対に必要であり、それをしなければ話が始まらない。しかし、問題を可視化した後で、何かしらの気づきがなければ次のアクションを起こすことができない。多くの気づきが発生するためには、品質を心配する意識がプロジェクトメンバになければいけない。

『組込みソフトウェアの安全設計』の記事で次の図を紹介した。一番下の Safety Culture = 品質を心配する意識 がベースにないと、その上の要素は形骸化してしまうという話は今回の話に通じていると思う。

-ソフトウェア安全確保のための重要な要素-

□    Design & Verification
□□□   Methodologies & Techniques
□□□□□  Rules/Regulations
□□□□□□□ Safety Culture

※Rules/Regulations:Rules/Regulations for Safety Critical System development

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