2007-07-14

トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本

昨日、久しぶりに池袋のジュンク堂に行った。コンピュータ関連のフロアを一通り眺めてみた感じたのは、組込みソフトの本とテスト系の本がここ2~3年でかなり増えたなあということだ。

組込みソフトの本で痛切に感じたのは、組込みソフトだからといって作る対象製品を特定せずに、CPUや周辺デバイスをインタフェースするドライバや、ソフトウェアの作り方を一冊の本で説明してしまうのはどうかなということだ。

なぜかというと、組込みソフトは制約条件や業務ドメイン、商品群、商品を投入する市場によって、アーキテクチャが変わるし、目的を達成する方法も一つではないので、どんな組込みソフトの分野にも効くゴールドスタンダードはないからだ。

ゴールドスタンダードがあるように読者に期待させると嘘になると思う。だから、『組込みソフトエンジニアを極める』では電子レジスタ商品群という具体的なモデルを対象にして、要素技術から商品群全体のアーキテクチャ、品質向上技術、再利用施策について書いた。、『組込みソフトエンジニアを極める』の読者が、自分たちの業務ドメインでそこに書かれている内容を現場で活かすためには、電子レジスタのモデルで展開された具体的な例を、自分たちのプロダクトだったらどういう風に適用すればよいのか、どのように投影すればよいのか考えないといけない。

どんな組込みソフト開発でも「こんな風にやれば成功しますよ」とは書いていないので、もどかしいと思う方もいるかもしれない。仮想の電子レジスタの開発という具体例で、組込みソフト開発の全体の流れや、技術者としての考え方、モチベーションの持ち方をつかんでもらい、自分達の開発現場にその考え方を投影し、展開する必要がある。

そして、この本の中に出てくる個々のソフトウェア工学の技術、たとえば、リアルタイムOS、オブジェクト指向設計、要求分析技術、テスティング技術などはそれぞれ専門書で勉強して欲しいと思う。「こういときに、こういう専門技術が必要なのだ」というあたりをつけて欲しい。

組込みソフトエンジニアを極める』は組込みソフト開発に対してエンジニアがどのようなスタンスで取り組めばよいのかを考えるガイドラインとしてとらえてもらえるとありがたい。そういう視点で見てもらうと、組込み系では他に類似する本はまだないと思う。

組込みソフトで難しいのは、ここの技術を深く掘り下げて解説する本は書きやすいのだけれど、それらの技術を使って個別の開発を成功させるにはどうすればよいのかについては、その商品をどんなもので、どんな市場に対してどんな制約下で作ろうとしているのかが分からないと最適な方法論をサジェスチョンできないという点だ。

だから、組込みソフトの商品開発に深く入り込んで、開発を成功に導いたコンサルタントはその方法論を知っている筈だが、守秘義務があるのでその核心部分を公にはできない。

さて、前置きが長くなったが、ジュンク堂で良い本を見つけた。『トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本―ポケット図解』(吉平 健治著)¥735- だ。

この本は、トム・デマルコの著書『ピープルウェア』『デッドライン』『熊とワルツを』のエッセンスを図解で分かりやすく示してくれている。同じシリーズに『ピーター・ドラッカーの「マネジメント論」がわかる本-ポケット図解』もあるので、これも後で買おうと思う。(ピーター・ドラッカーの原本の方は斜め読みがしにくくめげている)

トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本―ポケット図解』もまだ、読み始めたばかりだが、最初の1-1がプロジェクト管理の本質を示していると思うので、最初の部分から全体を推し量ってもらうべくここで紹介したい。

【『トム・デマルコの「プロジェクト管理」がわかる本―ポケット図解』 1-1 プロジェクト失敗の本当の原因は? より】

1. 本当の原因は人間の中に存在する社会学的問題

 確かに生産性や品質は向上したでしょうが、実際、プロジェクトに対する要求の複雑化、規模の増大は、このような技術の対応だけでは追いつかないところもあります。デマルコは、プロジェクトの失敗の原因は技術的な問題ではなく、実は、プロジェクトとそのチームの「社会学的」な問題によって引き起こされていると宣言しています。チームメンバーの意思疎通が疎かになったり、働く意欲が欠如したり、あるいは退職してしまったり、プロジェクト管理者への不信感が募ったりなどなど、人そのものと人に関する問題がトラブルの原因になっているのです。そらに事態を悪くしているのは、この事実を管理者たちが理解していないことだと彼は言います。

2. 開発者は交換可能な部品ではない

 ソフトウェアは結束したチームによって開発され、他の多くのチームや部署とコミュニケーションしながらでき上がるものです。本当にハイテク技術を使っているのは一部の「研究者」と呼ばれる人たちで、ソフトウェア開発者は実際には「人間関係ビジネス」に携わっているのです。したがって、開発者を機械のように交換可能な部品として考えるのは大変危険です。この危険な傾向が管理者たちの間でまかり通っていると、デマルコは警鐘を鳴らしています。

【引用終わり】

他にもさまざまなベストプラクティスについて書かれているので、まず、この本を眺めてからデマルコの原書を読むとよいと思う。

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