衝突回避システムの体験試乗会中に2人が重軽傷を負った事件で、関係者が業務上過失傷害容疑で書類送検された。
【「衝突回避」試乗会中事故>マツダ系店長ら書類送検 毎日新聞 7月11日(金)」より引用】
◇埼玉県警、業務上過失傷害容疑で
昨年11月に埼玉県深谷市で開かれたマツダ車の「衝突回避システム(自動ブレーキ)」体験試乗会中に、2人が重軽傷を負った事故で、埼玉県警は11日、主催した同市内にある「坂田自動車工業」の男性役員(37)やマツダ系販売店「オートザム深谷」の男性店長(34)ら3人を業務上過失傷害容疑で、試乗運転していた男性会社員(40)=同県本庄市=を自動車運転過失傷害容疑で、さいたま地検に書類送検した。4人とも容疑を認めている。
店長ら3人の送検容疑は、昨年11月10日の試乗会で7メートル先につり下げたウレタンマットに向かってスポーツタイプ多目的車「CX-5」を走らせることで同システムを体験させる際に、アクセルを踏み込むとシステムが正常作動しないなどの注意点を伝えず、事故を防止する注意義務を怠ったとしている。運転男性は操作方法を確認せずに車を急発進させ、時速30キロを超える速度で暴走させた疑いがあるとしている。
事故車はマットにぶつかり、さらに前方のフェンスに衝突。運転男性と助手席の販売店従業員が重軽傷を負った。
【引用終わり】
結局は、時速30km/h 以上では衝突回避システムが動作しないことを説明されなかった血気盛んな運転手がアクセルを踏み、ウレタンマットを吹き飛ばし、フェンスに衝突したというのがことの成り行きだった。
試乗会でユーザーにこのことを説明せずに車を突っ込ませた関係者も悪いことになっているが、市販車で自動ブレーキが当然効くものと思っていたユーザーが同じような状況で自動ブレーキが効かずに事故が起こった場合の責任は誰にあるだろうか。
事故で誰かを傷つけてしまった場合の責任や賠償は運転手だけが負うのだろうか。上記の書類送検の事例を考えれば、衝突回避システムについて十分に説明をしなかった者にも過失責任が発生するように思える。
衝突回避システムを搭載している自動車を売るときに販売店は説明して納得したことについてサインをもらっているだろうか。
最近、携帯電話やスマホを契約する際に、説明に納得して理解したことについてサインを求められる。たいして注意深く聞いてもいないのにサインだけしてしまうことが多いが、あれは裁判を起こされたときにキャリアや販売店側が自分の身を守るための次善の策だ。
いまどき、家電だって取扱説明書の最初の方に「警告」表示をたくさん書いている。そこに書いていることを守らないて事故が起きたときは、よっぽどのことがなければメーカー側が裁判で勝つ。
自動車の場合、メーカーは取扱説明書があっても読まれないことを前提としているということを聞いたことがある。説明書を読まなければ運転できないようではダメだというのだ。
これまでの「走る」「曲がる」「止まる」の基本機能だけですべてが成り立っていたときはそれでもよかっただろう。しかし、今では自動車の利用者が知っていないと危険に遭遇する仕様が増えている。衝突回避システムのその一つだ。使い方を誤れば人を傷つける危険性がある。
メーカーや販売店はそのことを事前にユーザーに伝える義務がある。医療機器の場合、EUで取扱説明書に注意喚起をすることだけでリスクを受容できると考えることを許さないという基準が出来て論議を呼んでいる。
このような基準が出来た背景は、何でもかんでも禁忌・禁止、警告、注意を取扱説明書に載せて、設計対策をせずにリスク回避ができるとする風潮を許さないという規制当局側の考えがあるようだ。
ようするにユーザーが実質的に読まない注意や警告でリスクを回避できると製造業者側が判断することはまかり成らんという考え方だ。
トヨタ以外の各社が衝突回避システムのコマーシャルの最後に一瞬だけ表示する「警告メッセージ」をこの考え方に当てはめると、この警告はメーカーや販売店の自己保身には使えないことになる。
そうなると、実際に自動車を販売するときに、注意事項を確認したとサインさせるのかもしれないが、CMであんなに宣伝しておいて、いざ自動車を売るときになって注意点に同意させるのは紳士的なやり方ではないと思うのだが、皆さんはどう考えるだろうか。
サインしたのが自分でも運転するのは奥さんの方が多いかもしれないし、誰かに車を貸すことだってあるかもしれない。
そういうことがあるからトヨタだけは、衝突回避システムという安全のための機能を「売り」にしにないのではないか。
試乗会で事故が起こったので、今度は公道で事故が起きるかも知れない。事故が起こるのを期待しているのでは決してない。そうなる前にできることをやるべきだと思うのだ。
しかし、人間は事故が起きないと、本気で安全に向き合おうとしないというのも事実だ。
「安全」を売りにしようとすると大きなしっぺ返しが来る。そのことは事故が起きたときに初めて分かる。
こちらの日経トレンディの記事も参照のこと。
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