2008-05-05

『はじめての課長の教科書』を読む

はじめての課長の教科書』という本を読んでいる。 2008年4月5日に第6刷までいっている。今日現在でも Amazon で総合20位だ。

著者の酒井穣さんのプロフィールは次のようなものだ。

酒井穣(さかい・じょう)

1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、オランダTilburg大学TiasNimbas Business School経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発、台湾向け精密機械の輸出営業などに従事。その後、ヘッドハンター経由でオランダの精密機械メーカーに転職し、オランダに移住する。主に知的財産権本部に所属し、特許マーケティングと特許ポートフォリオの管理を担当する。現在も知的財産本部の仕事に精力的に取り組みながら、オランダの柔軟な労働環境を活用し、2006年末Google Mapsなどを利用したウェブ・アプリケーションを開発するベンチャー企業J3 Trust B.V.を創業。最高財務責任者(CFO)としての活動を開始する。オランダでの生活、経営や育児、語学などの幅広い話題をカバーする人気ブログ、NED-WLTの管理人。
1972年生まれって、36歳ってことか・・・ 自分は36歳のとき何をしていただろうか。

例によって例のごとく、はじめにから一部を引用したい。ちなみに、よいと思った本の一節をキーボード叩きながら書き写すとただ単に読むよりもより頭の中に浸透する。学校で授業を受けているとき先生が黒板に書いていることをノートに写し取るのと同じだ。

はじめての課長の教科書 はじめにより引用】

 課長って、いったい何なのでしょうか。
 組織の中で、課長として成功することができれば、さらに輝かしいキャリアを歩むことができるでしょう。
 しかし現実には、多くのビジネスマンが課長のすぐ手前で昇進につまずいてしまったり、課長になったとたんに、人材の輝きが失われてしまうケースが少なくありません。キャリア形成において、課長という地位は、どうやらボトルネックに当たるようなのです。
 強調したいのは、多くのビジネスマンには、人生のうちの一度くらいは、課長に近い立場で仕事をするチャンスが訪れるということです。
 であるならば、世のビジネスマンたちは、課長として成功するための方法論に、もっと関心を向けるべきだとは思いませんか?

中間管理職向けビジネス書が見あたらない不思議

 課長のためのいいテキストはないか、世の中にあふれるビジネス書を広く調べてみたところ、その結果は意外なものでした。
 末端社員向けの実務的なノウハウ集や、経営者向けの専門書は多数見つかっているのですが、中間管理職一般の仕事について詳しく書かれたビジネス書というのは本当に少ないのです。
 さらに経営学の研究者たちの間でも、中間管理職の重要性に注目している人はとても少なく、むしろ中間管理職は組織のフラット化とともに「消え去るべきもの」として攻撃の対象にすらなっていることがわかりました。

 この結果を受けて、私にはピンとくるものがありました。
 マネジメント理論は、基本的には欧米から輸入されたものです。欧米発信の理論には、当然のことながら、日本企業の「特徴」や「強み」を活かそうという視点はありません。
 私は、これまでに日本の企業組織と欧米の企業組織の両方で働いた経験があり、現在は欧州でベンチャー企業を立ち上げ、経営者として活動しています。
 また私は、ファイナンシャル・タイムズのヨーロッパMBAランキングで8位に選ばれ、オランダ国内のランキングでは常に1位か2位に付けている欧州トップクラスのビジネス・スクールを主席(The Best Student Award)で卒業し、マネジメントの理論もそれなりに身につけています。
 ゲーテが「外国語を知らない者は、自国語も知らない」と言ったように、欧米の文化の中でインサイダーとして深くビジネスに関わってきた私には、日本の企業組織ならではの強みが見えるのかもしれません。

中間管理職は念頭にない欧米のマネジメント理論

 欧米の企業では、経営者と従業員は対立する立場であると考えられています。そのため、欧米を中心に開発され、発達してきたマネジメント理論というのは、企業組織を経営者(=支配者)と従業員(=被支配者)に分けて考える二元論をベースにしています。
 ですからマネジメント理論では、従業員はあくまでも従業員に過ぎず、それを中管理管理職と末端社員に分けて考えるという発想はほとんどありません。
 :

【引用終わり】
マネジメント理論は、基本的には欧米から輸入されたものです。欧米発信の理論には、当然のことながら、日本企業の「特徴」や「強み」を活かそうという視点はありません。
の「マネジメント理論」というところを「ソフトウェア工学」と置き換えても同じではないかと常々感じている。特に人間の心理や組織の在り方が強く影響するソフトウェアの世界では日本企業の「特徴」や「強み」を活かそうという視点が必要だと痛感する。同じ人間が考えていることなので欧米発信の理論でもそのまま役に立つことが圧倒的に多いが、もしも現場でうまくいっていないのなら、それは日本人の気質や日本企業特有の問題が関係していることが多いはずだ。

そう考えると、『はじめての課長の教科書』で問題提起されていることがらが、欧米発信の理論がうまく適用できない場合のヒントになる可能性が高いと感じる。

はじめての課長の教科書』の目次を見てみよう。

第1章 課長とは何か?

1 課長になると何が変わる?
2 課長と部長は何が違う?
3 課長と経営者は何が違う?
4 モチベーション管理が一番大事な仕事
5 成果主義の終わりと課長
6 価値観の通訳としての課長
7 課長は情報伝達のキーパーソン
8 ピラミッド型組織での課長の役割
9 中間管理職が日本型組織の強み

第2章 課長の8つの基本スキル

スキル1 部下を守り安心させる
スキル2 部下をほめ方向性を明確に伝える
スキル3 部下を叱り変化をうながす
スキル4 現場を観察し次を予測する
スキル5 ストレスと適度な状態に管理する
スキル6 部下をコーチングし答えを引き出す
スキル7 楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
スキル8 オフサイト・ミーティングでチームの結束を高める

第3章 課長が巻き込まれる3つの非合理なゲーム

ゲーム1 企業の成長と阻害する予算管理
ゲーム2 部下のモチベーションと下げかねない人事評価
ゲーム3 限られたポストと予算をめぐる社内政治

第4章 避けることができない9つの問題

問題1 問題社員が現れる
問題2 部下が「会社を辞める」と言い出す
問題3 心の病にかかる部下が現れる
問題4 外国人の上司や部下を持つ日が来る
問題5 ヘッドハンターから声がかかる
問題6 海外駐在を求められる
問題7 違法スレスレの行為を求められる
問題8 昇進させる部下を選ぶ
問題9 ベテラン係長が言うことを聞かなくなる

第5章 課長のキャリア戦略

戦略1 自らの弱点を知る
戦略2 英語力を身につける
戦略3 緩い人的ネットワークを幅広く形成する
戦略4 部長を目指す
戦略5 課長止まりのキャリアを覚悟する
戦略6 社内改革のリーダーになる
戦略7 起業を考えてみる
戦略8 ビジネス書を読んで学ぶ

はじめての課長の教科書』を読んでハッと思ったのは、「エース級社員は自由にしておいてもよい」とか「Cクラスの社員に対して、自分ができることは他人にもできるはずという発想で当たるのは最も大きな誤り」とか「動き回る管理職 MBWA= Management By Wandering Around が求められる時代」などといったさまざまな実際に思い当たる多くのヒントだ。

ただ、もう一つ思ったのはこの本に書かれていることをすべて遂行することは自分にはムリだということだ。

悲しいかな、欧米発ではなく日本人の気質や日本の組織に起因する良いところは、人工的には作り出すことは難しい、すなわち、もともと日本人として備わっている、個々にしみ込んでいることがらであれば、それを呼び覚ますことはできるが、性格や個人のポリシーを変えることはできないということである。

具体的には『問題9 ベテラン係長が言うことを聞かなくなる』の中で、「自らを権威づけする」という項目があり、課長が弱腰になってしまうと、部下全員が動揺してしまうという説明がある。

課長である自分に普段からこまめに権威づけしておくことは、部下から無駄な攻撃を受けないためにも大切なことで、いかにも権力の弱そうな課長では血気盛んな優秀な部下の攻撃をわざわざ呼び込むようなものであり、権威づけとは、いわば課長が自らに「権力のブランド」を構築するということであり、孔雀の羽のようなもので、ある程度まで虚飾性が入り込むことは避けられない、くだらないインチキだと思っても、権威が人の態度に大きな影響を与えるということは疑えない人間社会の現実だということが解説されている。

このことはとてもよく理解できる。理解できるけれども、自分は「自らを権威づけする」のが嫌いだし、それはポリシーに反するし、自らを権威づけしておりそれが虚飾である人は信用できないし、自らを権威づけしてそれが虚飾ではないかと疑われるのがイヤだ。

そんなポリシーを守っていることで血気盛んな優秀な部下の攻撃をわざわざ呼び込んでしまったり、権威の傘なしにロジックで勝負しなければいけないため多くの労力を要したりする。

「自らを権威づけする」ことが組織の中では必要だと理解しつつも、自らのポリシーにより受け入れがたい。出世欲みたいなものもないのでデメリットも少ない。

そう考えると、やっぱり自分が想定しているのは「個人商店の職人」なのだなあと思う。個人商店の職人は大きな組織の一員ではないので自らを権威づけする必要がない。店を訪れてくれたお客を満足させ、「うまい」と納得してもらい、プロフェッショナルの仕事に対する対価をいただき、また店を訪れてもらうことに生き甲斐を感じる。

だからこそ、大きな組織の中の一員としては思い通りのハンドリングできないことがあるし、「なぜそうなのか」の問いの多くに『はじめての課長の教科書』は答えてくれるのだ。

はじめての課長の教科書』は日本の中間管理職のメリットの面を大きくクローズアップした希有な存在だと思う。そこで、自分がお勧めしたいのは、『はじめての課長の教科書』と同時に、日本の中間管理職のデメリットの面を大きくクローズアップした『ここが変だよ日本の管理職』を同時に読むことだ。

『ここが変だよ日本の管理職』の記事に書いたように宋 文洲さんは、日本の組織の良くない点悪習を外国人の目で鋭くえぐり出している。

組織の中でどんな行動を取るべきなのか、何が正解なのかは、自分でもよく分からない。個人のしあわせが大事なのか、組織の成功を優先させるべきなのか、優秀な中間管理職を目指すことが必要なのか、本当に個人商店になってしまうのがよいのか。

今のところ一つだけ思い当たるのは、『はじめての課長の教科書』にも書いてあるように個人にしろ、組織にしろ、プロジェクトにしろ、新人と中間管理職の関係にしろ、価値観が共有できるところを見つけたいということだ。

顧客満足を高めるという価値観を共有することができれば、 芯の部分ではわかり合えるはずだと思う。これって日本人だけの感覚なのだろうか・・・
 

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